修との時間

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「俺、これ最近覚えたんだよね」 と、電モクを打ち込みながら修が言った。 「じゃあ、わたしが知らない歌だ」 「うん、多分」 イントロが流れる。 …………え…………!! ♪100回くらい忘れようとしたけどもうダメだよ 気づけばいつもお前のことばっかり思い出してた 今更だって分かってるけどやっぱり好きだよ 逢いたいよもう一度またやり直したい……… まさかまさかの、あの歌だった。 修と別れたばかりの頃、狂ったように何度も聴いては、どん底まで落ちた時の曲。 “修がこう思ってくれてたらいいのに” そう思っていた歌を、修の声で聞かされる羽目になるなんて。 ダメだ、引き戻される。 涙、出てくるな!止まってよ。お願い。 修、お願いだから振り向かないで。 お願いだから、気づかないで!! 願い虚しく、一番を歌い終わって振り向いた修が、目を丸くした。 自分で自分を殴りたくなる。 せっかくの楽しかった時間が、こんな風に終わってしまうなんて。 「……見、ない…で」 やっとの思いで絞り出した言葉に 修はひとつ(うなず)くと、前を向いた。 二番を歌い始める修の声は、もっと切なく胸に響いた。 泣き止みたいのに、涙はどんどん溢れてくる。 あの時の感情を呼び覚ますアウトロ。 ハンカチで顔を覆って、上げられなくなってしまった。 「結菜……」 歌い終わった修が、わたしに話しかける。 「うん…」 「結菜……ごめんな………ほんとにごめん」 わたしの頭から背中が、暖かい。 錯覚だろうか。 いや、錯覚ではない。 とても良く知っている匂いが、わたしを包み込んでいた。 修は…… 何に対して、謝ってるんだろう……。
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