修との時間

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「もう電車ないな。送るよ。代行呼んでくる」 「……うん」 修が廊下に電話をかけに行き、部屋にはわたし1人になった。 一生懸命、呼吸を整える。 なんてことをしてしまったんだろう。 もう取り返しがつかない。 なんで泣いちゃったのわたし。 せっかく過去の(わだかま)りを感じないように、話題を選んで楽しく過ごしていたのに。 泣きたくて泣いたわけではないけど、あの曲はアウトだ。 なにが“一番なわたしで逢いたかった”だ。ボロボロに泣いてしまって、最悪のコンディション。 スマホで時間を確認する。 あ……日付が変わってしまった。 “今日”になってしまった。 があるから、わたしは伊佐さんとの話し合いを急いでいたのに。 もう、何もかも台無しだ。 戻ってきた修が、「代行すぐ来るって。駐車場まで少し距離あるから、もう行こう」と、わたしの手を取った。 「うん…」と立ち上がり、ついて行く。 お会計の時に離れた手は、駐車場までの道ですぐまた 繋がれてしまった。 懐かしい手触り、懐かしい温もりだった。 歩きながら、空を見上げて修が言う。 「月が、綺麗ですね」 「………やめて、そんなこと言うの」 「……ごめん」 これも懐かしいやり取りだ。 もう、“I Love You”とは意訳しないよ。 日付が変わっていたことを思い出し、顔を上げて修に言った。 「お誕生日おめでとう、修。修にとって、幸せな1年になりますように」 修は顔をくしゃっと歪めて わたしを抱きしめ そして、キスをした。
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