修との時間

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お互い無言になり、駐車場へ急ぐ。 「俺……」 「うん」 「俺、また結菜と飲み行ったりカラオケ行ったりしたい。今日楽しかった」 笠間さんのことを思うと、了承してはいけない。 絶対にいい気はしないだろう。 と、わたしの“いい子の部分”が思う。 なのに、 「修が、大丈夫なら」 と“悪い子の部分”が答えた。 運転代行の車がすぐに来て、2人で修の車の後部座席に並んで乗り込む。 この後部座席にも、たくさんの思い出がある。 今のわたしがここに座ってはいけない気がして、居心地悪くもじもじする。またすぐに繋がれる手。 修は、なにを思っているのだろう。 わたしのアパートへと向かっている車。 修が、テキパキと分かりやすく道案内していた。 あぁ、そうか。ここからならその道の方が早いのか。 修の頭の中の地図は、わたしの中のそれより3Dだなと、そんな場合ではないのに感心する。 アパートに着き、手を離す。 わたしは車の外に出て「修、今日はどうもありがとう。それと、ごめんね」と伝えた。 『ごめんね』は、泣いてしまったことに対するお()びの言葉。 「俺……」 何かを言いかけた修の言葉を封じるように言った。 「また飲みやカラオケ、ね」 車のドアを急いで閉めて、 バイバイ、と手を振った。 急いだのは…この後なし崩しに、男女の関係に戻るのを恐れたからだ。 それと……。 さっきのキスの、言い訳を聞きたくなかった。 代行の人が運転する修の車は、なんの感情も持たずすぐに走り出す。 あんなことを言ってはいたけれど、きっと衝動的な感情。 今日は久しぶりに逢って、ただ少し気持ちが(たかぶ)っただけ。お酒も飲んでいたし。 もう、わたしにお誘いの声が掛かることはないのだろう。 などもう、無い。 遠くなって行く修の車に、もう一度小さく バイバイ、と手を振った。 これがもう最後なのだ、と覚悟しながら。
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