保留のその先

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保留のその先

土曜日、一日モヤモヤと過ごした。 誕生日当日の今日はきっと、修は笠間さんと過ごしているのだろう。 それは当然だ。 修は何を考えて誕生日の前日にわたしに逢いに来たのか。 修の言葉をそのまま受け取るならば、“逢いに来た”わけではなく、“食事をするのに結菜の会社が近かった”ということなのだけど。 都合が良かっただけなのだろう。 …何度も思い出してしまう、帰り道で落とされたキス。 きっと意味など無い。ただ一時(いっとき)の衝動だったに過ぎない。 そこに“意味”を見出(みいだ)そうとしてしまうなんて、(おろ)かなことなのだ。 受け入れたわたしももちろん悪い。 あの時……わたしはどこかで、『最後のキス』なんだから、と言い訳していたように思う。 『修が、大丈夫なら』 そう答えたわたしは、なんて(みにく)い女だろう。 一抹(いちまつ)の期待を、その言葉で繋いだのだ。 ハッキリと断ってしまえば、()ち切れたのではないか。 修には彼女がいる。 期待してはいけないと分かっているのに。 それにわたしは、伊佐さんからの申し出をきちんと考えなければならないのに。 ……わたしの誕生日に修がメッセージをくれたから、 そのお返しに、わたしも修の誕生日にメッセージを返そうと思っていた。 修にメッセージを返す前に、伊佐さんとの話に決着をつけておきたかったのに 想定外に、誕生日の前日に修と逢うことになってしまった。 ぐるぐる1人で考えていても、堂々巡り。 とりあえず金曜日の非礼を伊佐さんに詫びるのが先、と思いスマホを取り上げる。 LINEしてみることにしたのだ。 「こんばんは。昨日はわたしからお誘いしたのに、気を遣わせてしまってすみませんでした。きちんとお話ししたいので、またお時間を作っていただけますか?」 意外と早く返信が来た。 「昨日のことは気にしなくていいよ。明日は何してる?」 明日……明日は、車を動かそうと思っていた。 予定はそれのみ。 「明日は特に予定はありません」 すぐに既読がつき、返信がくる。 「じゃあ、明日逢ってもらえませんか?」 お休みの日に2人で逢うのか…。 それはそれで、既に特別感な気も。 でも、週明けまで持ち越すよりいいかもしれない。 月曜日からの仕事に影響を及ぼすよりは。 というより、こちらから時間をつくってもらうようにお願いしたのに 『逢ってもらえませんか』という言い方をさせてしまった。 「よろしくお願いします」 とだけ、返信した。 さて、どう話を進めればいいのだろう。 わたしが望んでいる、“保留のその先”…。 自分でもまだよく分かっていなかった。
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