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「今日は、返事をくれるのかな?」
ブラックコーヒーとカフェオレを挟んで座った伊佐さんが切り出す。
わたしの解釈が間違えていたら恥ずかしいのだけど、と思いながら
「伊佐さんは、わたしと、恋人のような関係になりたいんですよね?…身体の関係ナシの。」
後半は囁くように小さく言った。
「うん、そう」
テーブルに肘をついて、口の前にブラックコーヒーのカップを持った伊佐さんは、すんなりと認めた。
何から話そう…と迷いながら口を開く。
「えっとですね、この前は伊佐さんからそのお話を伺いました。ので、今日はわたしの方のお話を…。返事というほどのものが、今日出来るかはまだわからないんですけど…」
我ながら固い。
「うん、いいよ。急かす気は無いから。時間ならたっぷりある。なんでも聞くよ」
相変わらず優しい伊佐さんの言葉に勇気を貰って、話し始める。
「伊佐さんはとっても素敵な人です。朗らかで優しくて、誠実。伊佐さんに交際を申し込まれて、断る人がいるのかな?ってぐらい。
わたしも、伊佐さんのことは大好きです。
ただそれが、異性としてなのか、人としてなのか、わたしにはまだわからないんです」
「うん、いいよ、それでも」
「えっ、でも…」
「結菜ちゃんがいいように、俺を使えばいい。俺と一緒にいるのが、嫌なわけじゃないんだよね?」
「それは……はい。伊佐さんと一緒にいるのは心地いいです。でもね、」
少し言葉を切る。
この先を口にするのは、これが初めてかもしれない。
「でもね、わたし…1年前に別れた元カレのことを、まだ忘れてないんです」
言葉にのせると、意味と輪郭が思っていたよりクッキリしてしまった。
忘れてないんです。
忘れられて…ないんです。
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