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「うん」
動じない伊佐さん。
穏やかな微笑みを湛えたまま。
「……他の人を好きなわたしと一緒にいて、楽しいですか?」
「もしかして、だけどさ」
伊佐さんが、伺うようにわたしを見る。
「誕生日の朝と昼のLINE、それから金曜日の夜の電話…あれは、その元カレから?」
この人は…本当にわたしのことを見てくれているんだ。そう思った。
正直に答えよう。
「昼のは違います。美奈ちゃんです。朝のLINEと…金曜日の電話は、彼からでした。わたし……自分から伊佐さんを誘った日に、元カレからの呼び出しで、一緒に食事に行きました。……そんな女なんです」
「うん。なんとなく…そうじゃないかな?って思ってた。朝のLINEの時と、金曜日の電話の時、結菜ちゃんはおんなじ顔をしてた。驚いたのと、泣き出しそうなのと、両方混ざった顔だった。昼のLINEが違うのもなんとなくわかってた。笑顔だったし。ごめんね、本当のことを言ってくれるかどうか、カマかけちゃった」
「泣き出しそうでしたか、わたし…」
スカートの上で、ギュッと両方の拳を握った。
嬉しくて、混乱して……確かに、泣き出したい気持ちだった。
「よりを戻すの?」
驚いて伊佐さんを見つめる。
「それは無いです。元カレには、新しい彼女がいます。金曜日に連絡が来たのだって、たまたま近くに来てたからです」
さっきまで固く握っていた両手を開いて、ぶんぶん振りながら答えた。
「うん」
コーヒーを一口飲んで、伊佐さんは続けた。
「それでも結菜ちゃんは元カレを忘れられないでいる。俺は、それでもいいよ。そのままの結菜ちゃんでいてくれればいい」
どうして伊佐さんは、ここまでわたしの全てを受け入れてくれるのだろう。
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