濃い一日

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通り慣れた道を走る。途中までは地元に帰る時と同じなのだ。 「伊佐さん、あれ見てくださいよ」 「どれ?」 「歯医者さん」と言いながら、以前から気になっていた看板を指し示す。 「“久瀬歯科”…“Kuse Dental”………え、あれ“くせ”って読むんだ。くせ…歯科(笑)歯医者なのに、くせ歯科。くせーのかよ(笑)」 思ったより笑ってくれた。 「ね。もっと名前考えればいいのに、って前から」 「はははははは!」 めっちゃ笑うじゃん。 実はもっとすごいのがこの先に…… 「伊佐さん、あれも見て」 古びた看板を指差す。 「“板井小児科”…えーーー、いたい小児科!ダメだ、それはダメだって!(笑)」 爆笑ありがとう。 伊佐さんのそういうノリのいいところ、好きだなぁと思う。 「結菜ちゃん……」 「なんですか?トイレ?コンビニ寄ります?」 「コンビニも寄って欲しいんだけど…ってそうじゃなくて、ギアチェンジ…」 え、なんだろう。何か変かな?と焦る。 初めての人を乗せる時は、自分の運転がどう思われるか気になるものなのだ。 「な、なんですか??」 「ギアチェンジする手が、色っぽい」 誉め殺しキターーーーーー! 「や、やめてくださいよ、意識しちゃうじゃん!あぶない!」 「ははははは!」 笑いごとじゃないってばもう。 タイミングよく現れたコンビニの看板に、左折ウィンカーを出した。 車を停めて「もう!」と抗議すると、伊佐さんは少し申し訳なさそうな顔をつくって 「ごめんね、買ってあげるから、ご機嫌直して」 と、幼い子供を宥めるように言う。 「ジュースは飲みません!お茶、お茶買おう」 と、後部座席からバッグを取って降りた。 伊佐さんはまだ笑っている。 ずっと笑いっぱなしじゃん。 …楽しいな。と思う。 同じ車に乗っていても心地いい。こんな風に笑いながら愛車を走らせることも久しぶりだった。
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