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「お待たせ致しました、烏賊の姿造りでございます……あれ?結菜?」
お料理を持ってきてくれた店員さんが、わたしの名前を呼ぶ。
「え……香澄!?びっくり!ここで働いてるの?」
中学高校と部活が一緒だった友達だった。
「そうなのよ〜、っていうか、嫁いできたというか…」
と赤くなる香澄。
「結婚したんだ!おめでとう〜!若女将じゃん」
「ありがとう、結菜は?」
と、チラッと伊佐さんの方を見て自己紹介してくれた。
「すみません、はじゃいじゃって。初めまして、結菜の学生時代の友達の真田香澄です」
「えっと………」
伊佐さんのことを紹介したいのに、言葉が出てこない。
同僚?先輩?友達?……恋人、ではない。そこは念を押されてる。
なんて言おう。
「初めまして、伊佐皓平です。結菜ちゃんの………」と、伊佐さんもここで詰まってしまって、困ったようにわたしを見る。
いやいや、わたしも困ってるのよ。
伊佐さん自己紹介始めるなら、そこまで考えといてくださいよ。
フライング自己紹介。
「「なんだろうね?」」
と声が被ってしまい、2人で吹き出した。
香澄は不思議そうな顔をしたけど、
「そういう、微妙な感じ?」
と笑って仕事に戻って行った。
わたし達も「いただきます」と手を合わせて割り箸を割った。
さて、わたし達はこれからこの関係を、なんて呼べばいいのだろう?
「何が正解でしたかね〜?」
「そうだね、これからなんて名乗るのがいいのか、考えとかないとね。でさ、割り箸を割る手元も美しい!」
「もういいですってば」
息をするように褒める。
新鮮極まりない透明なイカのお刺身に舌鼓を打ちながら、2人とも「「うーーん…」」と考え込んでしまった。
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