112人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
自分のことなのに、どうすべきかまだ決めかねていた。
転職すべきか、とどまるべきか。
転職した場合のメリットーーやってみたかった仕事に携われることと、彼と彼女の姿を見ないで済むこと。
とどまった場合のメリットーー彼との失恋を苦にしての転職だという誤解を受けないで済むこと。それと…彼との縁が、完全には切れないで済むこと…。
うわ、我ながら女々しい。
プルルル……プルルル……
内線だ……あっ、今誰もいないのか!
慌てて受話器をとる。
仕事中、仕事中!
「はい、企画課森田です」
「……販促課宮崎です。西野課長いらっしゃいますか?」
彼だ。
ついこの前まで「あー俺、俺!西野課長いる?」だったくせに。
胸がギュッと苦しくなる。
もう、わたしと付き合っていたときの彼ではないんだ、と思い知らされる。
電話越しの彼の声も、大好きだった。
転職したら聞けなくなるな…。
「なによぅ、この前まで『俺俺!』だった人が(笑)今課長席外してるけど、すぐ戻ると思うよ?折り返すように言う?」
彼にこれ以上気を遣わせない為に、以前と同じように対応した。
だって、人を好きになる気持ちはコントロール出来ない。
彼の気持ちがわたしから離れて、彼女を好きになったことを、誰も責められない。
彼が悪いわけじゃない。
いや、次に行くなら、せめてこっちをきちっと終わらせてからにして、とは思うけど。
「ん………、ありがとな。」
「へ?いやいや(笑)多分トイレとかだと思うし」
「…そうじゃなくてさ…普通に話してくれて。」
うーん。気を遣わせないようにしたつもりだけど、
これでも気を遣うか。そりゃそうか…。
最初のコメントを投稿しよう!