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伝票を取り上げた伊佐さんを、
「ご馳走になってばかりじゃ……!!」
と引き留めてお財布をバッグから取り出す。
「なに言ってんの〜、俺が誘ったんだよ。男に恥かかせないでね。仕舞って仕舞って!」
大好きなイカをいろんな調理法で心ゆくまで堪能し、こんなに(イカで)お腹いっぱいにさせてもらって、
お支払いまで……申し訳ない。小さくなってしまう。
レジに出てきた香澄に、「ごちそうさま。とても美味しかったです」と微笑みかける伊佐さん。
香澄が素直に嬉しい顔を浮かべて「そう言っていただけて、主人も喜びます。ありがとうございます。また、結菜と来てくださいね」と言った。
「また是非」「香澄、ご馳走様。またね」
と各々挨拶して外に出ようとしたら呼び止められた。
「いい人だね」とわたしだけに聞こえるように言ってくれた香澄に、笑顔で頷いた。
相変わらずのいい陽気。小春日和だ。
車に乗り込み気分よくエンジンをかけると、
「ナビつけなくていいよ。道案内する」と伊佐さんが言った。
「?帰るだけじゃないんですか?」と聞くと、
「うん。ちょっとだけ、付き合って」と笑う。
伊佐さんの言うとおりに走ると、すぐそばに植物園があった。
「ここ。寄りたいんだけどいい?」
「はーい」
パーキングの案内に従い、車を停めた。
「ふふっ、デートみたい」
「デートでしょ。ほら、腕組んでもいいよ」
と、曲げた肘をわたしの前に突き出してくる。
「や、それはまだ、ちょっと、気恥ずかしいというか…」
「なーんだよー、残念!」
そんな会話を交わしながら、順路に沿って、2人並んで歩いた。
季節的に花はそんなに多くなかったけれど、青空の下
緑に囲まれて歩くのは気持ちが良かった。
「気持ちいいですね〜」
「気持ちいいね〜、腹ごなしにも丁度いい!」
「ふふっ、確かに」
思ったことをすぐに口に出し、同意してくれる人が隣にいる暖かさ。
「この花、見たことある?」
立ち止まった伊佐さんに聞かれる。
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