濃い一日

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わたしは植物には(うと)い。 でも、葉は見たことがある。 特徴的なギザギザ。 「えーーーっと、節分のやつ?」 伊佐さんがぶはっと笑う。 「うんそう。“節分のやつ”(笑)」 「花が、咲くんだ」 「これはね、“(ひいらぎ)”。聞いたことはあるでしょ?木偏(きへん)に冬、ね。で、字の通りに、冬に花が咲く。咲かないことも多いらしいけどね。今日は咲いてて良かった」 柊……あぁ、そんな名前だったっけ。 あれ?でも 「伊佐さん、クリスマスの飾りもこれ?」 「うん、柊ではあるけど、あれはセイヨウヒイラギ。属する科が違うらしいよ。クリスマスのは、赤い実でしょ?」 へー、男の人なのに詳しいな。 「小さくて白くて、可愛い花ですね」 「うん、可愛い」 しばし眺める。 “節分のやつ”に、こんな可愛い花が咲くことを知らなかった。 スマホを向けて、パチリと写真におさめる。うん、可愛い。 「あんまり近寄ったら危ないよ。ガチで痛いからね、この葉っぱ」 「うん、すごい痛そうですね、トゲトゲ」 伊佐さん、お父さんか!ってほど心配性だな。 「“柊”という名前すら出てこなかった人に聞いても無駄だと思うけど…一応聞く」 ちょっとムッとする。 知ってたもん!出てこなかっただけだもん! 「なんですか?」 「柊の花言葉、知ってる?」 「……………“痛くしないで?”」 伊佐さんがまた豪快に笑ってる。 知るわけないじゃん……それにしても、伊佐さんの口から“花言葉”なんて出てくると思わなかった。 ロマンチストなのかなぁ。 「そ、そ、そ、そっちの方がいいや。それでいい!」 笑いながら言う。 「えー、ほんとはなんなんですか?」 「ちょっと、言うムードじゃなくなった(笑)家に帰ったら、ググってみてよ」 「えー、けち……」 結局教えては貰えずに、お腹を抱えて笑う伊佐さんと共に植物園を(あと)にした。
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