濃い一日

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「伊佐さん()、最寄駅どこですか?」 「ん、M駅だけど、もう帰る?この後の予定は?」 作り置きは昨日モヤモヤしながら済ませたし、後は、車を洗いたかった。 「伊佐さん送ったら、洗車ですかね。あとは家に帰ってダラけます」 「ダラけるんだ(笑)もし良かったらだけど、洗車手伝うよ?俺が手伝えば、もっと長い時間ダラけられるよ?(笑)」 M駅か…。ちょっと距離あるな。送って行って、家に帰って着替えて、洗車場… 日が暮れかけてしまうかもしれない。 いくら小春日和だった今日でも、夕方は水が冷たそうだ。 「いいんですか?でも一回わたしの家に寄って着替えないと…」 さすがにロングスカートで洗車する気にはなれない。 「いいよ、着替えてくるの、車で待ってるよ」 お言葉に甘えっぱなしの今日。 もうとことん甘えてしまえ。 「じゃ、すみません。わたしの家に向かいますね」 「オッケー!まだ結菜ちゃんと一緒にいられる」 嬉しそうな伊佐さんを見て微笑ましく思いながら、 コクン、とギアをローに入れて走り出した。 「カ、カワイイ……」 そんなわけないでしょう。 いつものわたしの洗車スタイル。 邪魔にならないように髪をぐるっと丸めてまとめ上げ、車に傷がつかないようにファスナーが前立てに仕舞えるスタイルの撥水加工のウィンドブレーカーの上下、 そして………長靴。両手にはバケツと雑巾。 「いいです、それは無理があります、わかってます」 「いや本当に、カワイイって!……ぶくくくく」 笑いたい人は放っておくことにしよう。 「俺ね、高校生からスタンドでバイトしてたんだよ」 伊佐さんはそう言って、綿のシャツを脱いだ。 汚れてしまうからかな?寒いのに。 伊佐さんにも何か、上着を持ってきてあげればよかったと思っていると、 「ボタンで傷つけちゃったらかわいそうだからね」 とのことだった。 「えええ、そんな!寒いんだから着ててください」 「いーや、それは俺のスタンドマンポリシーに反する!」そう言って手際よく高圧洗浄機を操る。 わたしはその水圧によく翻弄されて振り回されてしまうので、さすが男性だな〜と見ているばかりだ。 「拭き上げにも、順序があるんだよ〜。まずは、フロントガラスから」 とテキパキと拭き上げていく。わたしも慌てて伊佐さんの真似をした。 今までわたしがなんとなくやっていたやり方よりも、抜群に効率的だった。 「伊佐さんズルい。何やってもわたしより上手…」 ブツブツ言うと、 「ね、連れてきてよかったでしょ?」とドヤ顔をした。 カワイイところあるんだよなぁ、この人。
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