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猫舌のわたしは、グラタンが冷めるまで先にウニクリームパスタを食べようとしていた。
フォークにパスタをクルクルと巻きつけながら、早急に決めるべき問題を思い出した。
「そーだ、伊佐さん!佐藤さん何か言ってました?」
「いーや、話題変えたからね。大丈夫」
確かに、わたしがデスクに戻った時には、2人でもう仕事の話をしていた。
「佐藤さんに限らず…会社の人に何か聞かれたとき、なんて答えるか決めといた方がよくないですか?」
「確かに」
伊佐さんはグラタンから食べている。熱いの平気なんだな。
「でも、例えば“付き合ってる”とか言っちゃったらさ」
「はい?」
「結菜ちゃんに他に好きな人が出来た時困るでしょ?」
わたし……そんなに簡単に好きな人が出来ると思われているのだろうか。
伊佐さんは、そうなることを望んでるのかな…。
わたしが修のことを忘れて、新しい彼氏を作れるようになる為に、わたしと一緒にいてくれてるってこと?リハビリ?
なんか…それはそれで悲しい。
悲しい?なんで?わたしは伊佐さんに彼氏になってもらいたいのだろうか。
わからないけど、“他に好きな人”なんて、伊佐さんの口から聞きたくなかったのは確かだ。
「伊佐さんは、わたしに“彼氏”呼ばわりされたら迷惑ですか?」
「迷惑なんかじゃないよ、ただそうしたら結菜ちゃんが…」
「わたし、そう簡単に人を好きにならないと思います」
伊佐さんの顔を真っ直ぐ見つめて言う。
「伊佐さんが迷惑じゃないんだったら、これからは“彼氏”って紹介させてください。“なんだろうね?”じゃなくて」
そこで伊佐さんが思い出したように笑った。
「ハモったねぇ〜あの時!」
軽くかわされた気がして、もう一度言った。
「今度誰かに聞かれたら、“付き合ってる”って言ってもいいですか?」
伊佐さんはちょっと考えて言った。
「聞かれたら、ね。結菜ちゃんがそれでいいなら」
「はい。じゃあそれで」
距離を置かれてる感じがしたけれど、強行することにした。
次に好きになる人は、伊佐さんがいい。
好きに、なりたいの。
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