初冬

4/5

112人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
猫舌のわたしは、グラタンが冷めるまで先にウニクリームパスタを食べようとしていた。 フォークにパスタをクルクルと巻きつけながら、早急に決めるべき問題を思い出した。 「そーだ、伊佐さん!佐藤さん何か言ってました?」 「いーや、話題変えたからね。大丈夫」 確かに、わたしがデスクに戻った時には、2人でもう仕事の話をしていた。 「佐藤さんに限らず…会社の人に何か聞かれたとき、なんて答えるか決めといた方がよくないですか?」 「確かに」 伊佐さんはグラタンから食べている。熱いの平気なんだな。 「でも、例えば“付き合ってる”とか言っちゃったらさ」 「はい?」 「結菜ちゃんに他に好きな人が出来た時困るでしょ?」 わたし……そんなに簡単に好きな人が出来ると思われているのだろうか。 伊佐さんは、そうなることを望んでるのかな…。 わたしが修のことを忘れて、新しい彼氏を作れるようになる為に、わたしと一緒にいてくれてるってこと?リハビリ? なんか…それはそれで悲しい。 悲しい?なんで?わたしは伊佐さんに彼氏になってもらいたいのだろうか。 わからないけど、“他に好きな人”なんて、伊佐さんの口から聞きたくなかったのは確かだ。 「伊佐さんは、わたしに“彼氏”呼ばわりされたら迷惑ですか?」 「迷惑なんかじゃないよ、ただそうしたら結菜ちゃんが…」 「わたし、そう簡単に人を好きにならないと思います」 伊佐さんの顔を真っ直ぐ見つめて言う。 「伊佐さんが迷惑じゃないんだったら、これからは“彼氏”って紹介させてください。“なんだろうね?”じゃなくて」 そこで伊佐さんが思い出したように笑った。 「ハモったねぇ〜あの時!」 軽くかわされた気がして、もう一度言った。 「今度誰かに聞かれたら、“付き合ってる”って言ってもいいですか?」 伊佐さんはちょっと考えて言った。 「聞かれたら、ね。結菜ちゃんがそれでいいなら」 「はい。じゃあそれで」 距離を置かれてる感じがしたけれど、強行することにした。 次に好きになる人は、伊佐さんがいい。 好きに、なりたいの。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

112人が本棚に入れています
本棚に追加