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おうちデート
あれからひと月余り。
わたし達は、就業後毎日のように一緒に過ごすようになっていた。
企画営業部の飲み会も頻繁にあったので、2人きりではない日も多かったけれど。
飲み会が無い日は、食事をしに行ったり、飲みに行ったり、カフェに寄ったり。
2人でいるところに、偶然会社の人が現れて
合流する事も何度かあった。
それなのに、会社の人達から、伊佐さんとわたしの関係を面と向かって問われるようなことは無かった。
意外に思ったけど、伊佐さんは「みんな大人だからね〜」と、気にも留めていない様子だった。
まぁいいか。聞かれたら答えればいいだけの話だ、と納得した。
毎回支払いを済ませてくれる伊佐さんに、申し訳ない気持ちが募る。
わたしには払わせてもらえない。
「男に恥かかせないでよ」と言われてしまえば、あまり強くも言えない。
なんとかお返しする方法はないものか。
考えた末、思い切って伊佐さんを自宅に誘ってみた。
「明日の土曜日は、おうちデートにしませんか?」と。
伊佐さんがしてくれることのお返しには、到底足りないけれど。
「…うちって、結菜ちゃんの?」
「はい」
自宅まで送ってもらうたびにお茶に誘っても
伊佐さんは何故か頑なに部屋には入ろうとしなかった。
今まで、ただの一度も。
「……じゃあ、お邪魔しようかな」
やっと…初めて了承してもらえた。
「そんなに得意ではないですけど、お料理頑張って作りますね!」
部屋に招く、ということは、そういうこと。
伊佐さんは『身体の関係はナシ』と明言していたけれど、わたしが“もしそうなるならそれでもいいですよ”と思っていることの、意思表明だ。
伊佐さんと過ごす時間は穏やかで心地いい。
“好き”の形が段々変化してきていることが、わたしには嬉しかった。
無理なく徐々に“人として好き”に、“異性として好き”がプラスされてきたと感じる。
けれど…
きっと伊佐さんは、わたしには手を出さない。
部屋に誘った以上、そうなってもわたしは拒む気はサラサラないけれど、
きっと伊佐さんは、わたしには手を出さない。
大事なことなので2回。
それは確信に近かった。
『また飲みやカラオケに行きたい』と言っていた修からは、ひと月経っても、なんの連絡もないままだった。
わたしはこのまま、伊佐さんを好きになる。
それでいいんだ、と思った。
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