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「だって、嫌いになったわけじゃないもん(笑)」
……しくじったか。
おどけて言ったつもりの軽い言葉が、
口から外に出た途端に、重みを増す。
しまったなぁ。。。
「……あのさ、」
彼がそう言ったタイミングで、西野課長とアシスタントの美奈ちゃんが連れ立って戻ってきた。
西野課長は案の定ハンカチで手を拭いてる。
男の人って、なんでトイレの中で拭いてから出てこないかな。トイレに行ってたのバレバレ。
美奈ちゃんは、湯気のたったマグカップを3つ乗せたトレイを持っていた。
3時か。給湯室に行ってたのね。
「ねぇ、戻ってきた!」
彼にそう告げてから受話器を塞ぎ、
「課長〜、販促の宮崎さんからお電話でーす!」
と伝えて、彼に向かって「じゃあね」と保留ボタンを押した。
『……あのさ、』
の続きはなんだったんだろう…?
気にはなったけど、
ろくでもない話のような気がして、放置した。仕事中だし。
それにわたし、もうこれ以上傷つきたくないんだってば。
人を好きになる気持ちはコントロール出来ない。
彼の気持ちが離れても、わたしの気持ちに踏ん切りがつかないように。
美奈ちゃんが、わたしの席にコトリとマグカップを置いてくれたとき、心配そうにわたしを見つめていたのは何故だろうか…。
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