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伊佐さんもお待たせしているし、近所だし。
キチンとメイクではなく、さっと済ませた。
ワンピースに着替えて洗面所から出ると、
「わーー、カワイイ!さっきとは別人みたい」
別人って……それもどうなの。複雑。
「本人です。さっきまでがあまりにも酷くてすみません」
「えっ、いやいや、さっきも可愛くて、今の可愛いさとはまた別の……んんんっ」
焦る伊佐さんSSR。最後は咳払いで誤魔化された。
「商店街は、何しに行くの?」
「えっと、お魚屋さん行きたくて」
アーケードに入りたての所に、一軒のお魚屋さんがあった。
「あれ?いま通り越したよ?」と伊佐さん。
「うん、今のとこはね、干物とか佃煮とかの加工品が美味しいお魚屋さん。わたしが行きたいのは、こっち」
と、もう一軒のお魚屋さんを指差した。
「いらっしゃい!」
「こんにちは」
このお魚屋さんは何度か利用してるので、おじさんとも顔見知り。プライバシー保持型の人で、愛想はいいけど、世間話などはいつもしない。馴れ馴れしくもしない。
「ここはね、生のお魚が美味しいんですよ」
と伊佐さんに言うと、
「うん、すごい美味しそうだね〜」
と興味深げに氷漬けになってる丸物の魚を眺めている。
ショーケースを覗いて考える。既に切られている柵は、どれも大きいなぁ。
「すみません、これもう少し小さく切ってもらうことって出来ます?」
「あいよっ。どれがいい?」
「少しずつでいいんですけど、種類が欲しくて…マグロ赤身のとこと、中トロのとこと、うーん…伊佐さん、サーモン好きですか?じゃあ、あとサーモンも」
「あいよ〜、このぐらい?」
と柵の上で手でサイズを切って見せてくれた。
「あ、はい!そのぐらいずつで」
「はーい、ちょっと待ってね」
商店街での買い物は、融通がきいていい。
「慣れてるね〜」
「おばちゃんぽかった?」
「頼もしかったよ(笑)」
今日は変なところばっかり見せてしまっている。
でも美味しそうなお刺身が欲しい分だけ買えて大満足だ。
「はーいお待たせ!」
とお刺身を包んでくれたおじさんに、
保冷庫の中の板氷も一緒に売ってもらった。
お会計を済ませて、家路に着く。
「お刺身食べたかったの?」
「だって、せっかく美味しそうな日本酒!」
もう心はウキウキだった。
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