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そろそろ日本酒を、となってキッチンに立つ。
スライサーで大根のツマを作り、大葉と共に切ったお刺身を盛り付けた。
冷酒用のお猪口と醤油の付け皿を出し、お風呂場の保冷バッグに日本酒を取りに行く。
戻ってくると、伊佐さんの手によって既にテーブルに並べられていた。
「伊佐さん、いい旦那さんになりそう」
「いやこれだけ準備してもらってさ、運びもしないわけにはいかないでしょ〜」
世の中、そういう男性ばかりじゃないんですよ、伊佐さん。
日本酒を伊佐さんのお猪口に注ぐ。すぐさまボトルを奪われて「ご返盃!」と微笑まれた。
「うん!刺身美味しいね〜!帰ってきてからすぐ、あれ何してたの?」
「もともとあのお魚屋さんのお刺身は美味しいんですけど…」と前置きをして、下処理の説明をした。
「余計な水分が抜けて、もっと美味しくなるんですよ」
「へぇ〜〜!今度やってみようかな」
きっと、自分の家でもマメなんだろうな。
「今日はさ、いろんな結菜ちゃんが見られて嬉しい!」
日本酒は酔いが回るのが早い。ビールもそこそこ飲んでいるし。
「え?そう??」
ちょいちょい敬語が抜けてしまう。
「うん、いいねぇ。俺が思ってたより、結菜ちゃん子供っぽいとこもあるんだね〜」
伊佐さんも酔ってきてるのかな?そういえば、一緒に日本酒を飲むのは初めてだ。わたしは外ではビールばかりだし。
「ところで結菜ちゃんさ、俺の下の名前知ってる??」
「知ってますよ〜!皓平さん、でしょ??」
「知ってたのか!」と額に手を当てて上を向く。
「え?なんで??」
「ずっと“伊佐さん”だからさ、知らないのかと思って」
「あー…なんて呼ばれたい?皓平?」
伊佐さんはちょっと眉を顰めて、「“皓平”は嫌だな」と俯いた。
「じゃあ、“皓ちゃん”?“皓”?」
「あ、それいい!誰にも呼ばれたことない。“皓”にして」
「はーーい、“皓”」
「うわーーーーー!」
それがいいと自分で言ったくせに、“皓”と呼ぶたびにめちゃめちゃ照れるのが面白くて、何度も何度も呼んだ。
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