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聞いてみる
修からは何も言ってこないし、わたしは皓といることを選んだ。
色々と考え込んでしまったけど、わたしにはもう関係のないことなんだ。関係のない人なんだ。
そう、気持ちを切り替えようと思った。
全く考えないわけにはいかなかったけれど。
皓は一度お泊まりしてから、頻繁にわたしの部屋に訪れるようになっていた。
会社帰りにそのまま2人で買い物をして家で食べることも、外食してから送ってくれて部屋に上がることもあった。
週末に来ることも。お泊まりしたのは、あの一回きりだったけれど。
就業後、レストランで食事をしてきた今日。お酒は、2人とも軽く一杯だけ飲んだ。
送ってくれた皓に、「金曜日だし、寄ってくよね?飲み足りなくない?」と聞くと、ちょっと考えてから「少しだけお邪魔するね」と微笑んだ。
ビールを飲みながら、2人並んでソファを背に座り、バラエティ番組を流し見ていた。
「前は、送ってくれても絶対部屋に入らなかったよね」
「…そうだね」
「どうして?」
皓は言いにくそうにしてたけど、「ねぇなんで?」ともう一度聞くと、重い口を開いた。
「だって、部屋に入ったら触れたくなっちゃうと思って。『身体の関係はナシ』って、俺が言い出したことなのに」
そうだったのか。
なるほど、初めてわたしの部屋に入ったその日、確かに皓はわたしを抱きしめたね。
それまでは逢うのはいつも外だったから、手さえ繋いだことがなかった。
確かに、抱きしめる前も『“ハグ”って、身体の関係?』って聞いてきたっけ。
今は、ハグは何も聞かずにするようになった。
手を繋ぐこともある。
けれどまだ、キスもそれ以上も無いままだった。
とても不自然に感じていた。
聞いてみよう、今。こういう話には、勢いが必要だ。
「皓?」
「なに?」
「未だにキスもしないのは、身体の関係になりたくないから?“キス”って、身体の関係?何故、“身体の関係”に拘るの?」
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