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2人で何度も訪れたことのあるレストランの、座り慣れたいつもの席に、迷わずに進んで行く修に、僅かな違和感を覚える。
そこ座るんだ。あの頃のように。へぇ。
別れた元カレだけど、くそぅ、やっぱり格好いいな。
一体何を食べたら、そんなに骨の一本一本が長く育つの?
と、かつてシーツの海で考えたことを思い出した。
もちろんなんだけど、歩く姿も以前と変わらない。
大きな背、長い手足。懐かしい後ろ姿。
向かい合わせに座った彼が、言いにくそうに切り出した。
「こんなこと、森田さんに頼むのはどうかと思う。
でも、森田さんにしか頼めない」
「なに、どした??」
普通に返事を返しながらも、引っかかる。
“森田さん“……そりゃそうか。もうとっくに別れてる。
以前のように"結菜”とは呼んでくれないんだね。
もう二度と。
「あのさ、もし笠間さんに、俺と出かけたことがあるか聞かれたら、2回ぐらいはある、ってことにして欲しい」
……………はぁ。そういう感じですか。
ひどい男、と改めて思う。
「笠間さん」とは、彼女のことだ。修の、新しい。今の。
彼女はわたしと彼が以前付き合っていたことは知らないはず。
でも、仲が良かったことは少しは感じてるだろうから、何かを怪しまれているのか?
口裏合わせ、ね。
我ながらバカだとは思うけど、元カレから改めて「話しがある」なんて言われて
少しはドキドキしてたのに。
期待してたわけじゃないけど。
ドキドキ返せ。
「そりゃいいけど……なんで?一回も出かけたことなんてないよ、のテイの方がいいんじゃないの??」
「いや……そこは、2回ぐらいでお願いします」
ははぁん。既になんかそういう会話があったということなのね。
察し。
「ん、わかった。でもまぁ、笠間さんはわたしに直接聞いてきたりするような人じゃないと思うよ〜?修が話したことを、そのまま素直に信じる子だと思う。そうでしょ?」
おっと。
つい以前の呼び名で呼んでしまった。
訂正するのも気まずくて、そのままスルーして話し続けた。
「そうかな……そうだよな。そういう子だよな」
なんかもう、本当に彼女のことしか見えてないんだな、修。
わたしの気持ちを慮るとか、そういう神経はどこに落としてきた??
交番に届いてるんじゃないの?返してもらってこい。
わたしの知ってる修は、
わたしの感情の起伏に、誰よりも敏感だったはずなのに。
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