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2人並んでお皿を洗い終えて、またダイニングテーブルに向かい合って座った。
「昔話をしてもいい?」
皓が切り出した。
「うん」
「俺はね、バツイチなんだよ」
あぁ。以前、そう感じた発言があった。
『結婚はしていないよ。今は』
「うん、もしかしてそうかなぁ?って思ってた」
皓は少し目を見開いた。
あの言い回しは、無意識だったんだな、と分かる。
「俺ね、自分で言うのもなんなんだけど…大学生の時、かなりモテた時期があったんだよ。特に頭がいいわけでもない。特に容姿がいいわけでもない。なのに、何故かその頃モテ期が来てた。
で、そのうちの1人と学生結婚したんだ」
モテて当たり前だったんじゃなかろうか。
小中学生は、頭がいい男の子や足の速い男の子がモテる。高校生は、面白い優しい男の子がモテる。
優しくて、朗らかで、穏やかで、誠実な大学生の皓は……そりゃモテたでしょ。
でも、学生結婚!それは早い…。
慎重な皓のイメージじゃない。
少し驚く。
「早いよね。俺もそう思った。けど、子供が出来たんだ」
子供はいない、って…『子供はいない。1人も、どこにも』って言ってたのに…。
でもあの日の伊佐さんは、『話せることについては必ず本当のことを話す』って言っていた。
だから、反論せずに続きを待つ。
「避妊はしていたけど、100%じゃあない。付き合ってたわけだから、彼女のことは勿論好きだった。『子供が出来た』と言われて、すぐ結婚するべきだって思ったんだ。
ZAXへの入社も内定してた。まだ学生だけど、子供が産まれるなら、入籍は1日でも早い方がいいと思った。
学生時代に俺が住んでいたアパートに、彼女が転がり込む形で新婚生活をスタートさせたんだ」
過去の話とは言え、若い2人の前途洋々たる幸せそうな姿が目に浮かんで、胸がチクリとした。
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