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「最初のうちはね、絵に描いたような新婚生活を送ったよ。
だけど…彼女が段々と、元気を無くしていった。
妊娠中だし、体がしんどいのかとか、精神的に不安定なのかとか、気も遣ったし、なんでも手助けするつもりでいた。代わってはやれないから…」
優しい皓のことだ。
元気の無い身重の奥さんに、何もしてやれることがなくて
どれだけ辛かっただろう。
「彼女は妊娠初期だったけど、毎晩のように…俺を求めてきた。俺は身体が心配で、大事にして欲しかったけど、もし彼女がそうすることで、精神的に落ち着くのなら、不安がなくなるのなら、と思って、できる限り応じたよ」
…うん。
結婚してたんだし、理解はしてるけど…皓のそういう話を聞くのは、やっぱり……。ザワザワする胸を手のひらで押さえた。
「そうしたらある日…その行為中に……出血した」
「えぇっ!!!」
大変なこと!!そんな、そんな……
思わず両手で口を塞ぐと、皓は首を振った。
「……違う……生理が、来たんだ」
「……え?」
皓は、過去を思い出しているのか……辛そうな顔で続けた。
「妊娠していなかったんだ。子供が出来たっていうのは嘘だった。
俺を、繋ぎ止める為の…」
「……なんでそんな……」
「彼女と俺は同じサークルだった。そのサークルの他の子達が……俺を奪おうとしてた、らしい。嫌がらせまがいのこともされてたって。だから、奪われる前に、結婚してしまえばいい、って。短絡的な発想…若かったしね」
『若かった』で済ませるには……
その『短絡的な発想』で、皓が受けた傷は計り知れない。
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