112人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
「今ひとつ、上手く行ってないみたいですね」
焼き鳥を串から外しながら美奈ちゃんが言った。
突然の言葉にドキリとする。
なんで?
どこから話がどう伝わった?
皓が、佐藤さんに何か話したのだろうか。
「なんの話?」
上擦りそうな声を抑えて、短く尋ねた。
「宮崎さん。企画なかなか通らなくて、凹んでますね…。宮崎さんみたいな人はね、パソコンに向かって考えてるよりも、“対、人”の方が向いてると思うんですけどね…。
なーんて、アシが偉そうに言っちゃってますけど」
修の話だった。
皓の話じゃなくて、ちょっとホッとしたような、
こちらの話も胸がざわつくような。
そして、咄嗟に“上手く行っていない”=“皓とわたし”と思ってしまったことにも、動揺した。
「そうなんだ…」
「やる気が削がれてるのかな〜って感じはしますね。明るさが少し減ったような。宮崎さんのいいところなのに」
確かに、企画が通らないことが続けば凹むし、
自信を無くしていれば、明るさも減るだろう。
修の明るさは、自信に裏付けられてこそのものだ。
販促課ではその人当たりの良さで、実績も良かった。
自ら望んだ異動で、実績が出せていないのであれば…
また販促課に戻されることもあるだろう。
「結菜さんは、どうですか?」
「わたしは今、一番下っ端の状態だし…言われたことをこなすのがメインかな」
「下っ端……(笑)」
そうだった。『下っ端』って言ったら笑われるんだった。
皓の屈託のない笑顔を思い出した。
その顔が、随分懐かしいことのような気がする。
最近の皓の笑顔は
穏やかで優しいのは変わらないけど
どこか、わたしをいたわるような、慰めるような…
憐れんで、いるような。
そんな笑顔だ。
最初のコメントを投稿しよう!