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「今ひとつ、上手く行ってないみたいですね」 焼き鳥を串から外しながら美奈ちゃんが言った。 突然の言葉にドキリとする。 なんで? どこから話がどう伝わった? (こう)が、佐藤さんに何か話したのだろうか。 「なんの話?」 上擦(うわず)りそうな声を抑えて、短く尋ねた。 「宮崎さん。企画なかなか通らなくて、(へこ)んでますね…。宮崎さんみたいな人はね、パソコンに向かって考えてるよりも、“(たい)(ひと)”の方が向いてると思うんですけどね…。 なーんて、アシが偉そうに言っちゃってますけど」 (しゅう)の話だった。 皓の話じゃなくて、ちょっとホッとしたような、 こちらの話も胸がざわつくような。 そして、咄嗟に“上手く行っていない”(イコール)“皓とわたし”と思ってしまったことにも、動揺した。 「そうなんだ…」 「やる気が削がれてるのかな〜って感じはしますね。明るさが少し減ったような。宮崎さんのいいところなのに」 確かに、企画が通らないことが続けば凹むし、 自信を無くしていれば、明るさも減るだろう。 修の明るさは、自信に裏付けられてこそのものだ。 販促課ではその人当たりの良さで、実績も良かった。 自ら望んだ異動で、実績が出せていないのであれば… また販促課に戻されることもあるだろう。 「結菜さんは、どうですか?」 「わたしは今、一番下っ端(したっぱ)の状態だし…言われたことをこなすのがメインかな」 「下っ端……(笑)」 そうだった。『下っ端』って言ったら笑われるんだった。 皓の屈託(くったく)のない笑顔を思い出した。 その顔が、随分(ずいぶん)懐かしいことのような気がする。 最近の皓の笑顔は 穏やかで優しいのは変わらないけど どこか、わたしをいたわるような、(なぐさ)めるような… (あわ)れんで、いるような。 そんな笑顔だ。
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