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「えっ、なんで!?美奈ちゃんが呼んでたの?偶然?」
「驚いたことに偶然です。マジで」
美奈ちゃんが笑い転げている。
本当なんだろう。
「び……びっくりしたぁ〜〜」
と言いながら、空席に置いていた鞄をどかした。
「あ……それとも別々の方がいい?」
ちょっと遠慮の気持ちが働く。皓はわたしと一緒じゃ、気を遣って楽しめないかもしれない。
美奈ちゃんからお誘いがあった今日、皓にそれを告げると『じゃー俺は久しぶりに佐藤と飲みに行くかな』と言っていた。
皓も、男同士の話があるのかもしれない。
まさかここで会うとは。
「お邪魔じゃなければ〜」
皓の、こういう戯けた言い方も、久しぶりに聞いた気がする。
佐藤さんはもう既に美奈ちゃんの隣に腰掛ける姿勢だ。
結菜「なんか懐かしいね、前もこうやって4人で飲んだね」
皓「結菜ちゃんの誕生日の時、ね」
美奈ちゃん「あの日がキッカケでわたし達付き合い出したんだから、結菜さんは縁結びの神ですよ」
佐藤さん「うわ、伊佐お前、“結菜ちゃん”とか呼んでんだ!」
佐藤さんに突っ込まれて恥ずかしそうな皓。
わたしもつられて赤くなる。
その後気をつけて聞いていたら、佐藤さんと美奈ちゃんは“美奈”“やっちゃん”と呼び合っていた。
いいなぁ……なんかすごく、近しい印象を受ける呼び方。
「あの2人の呼び方、いいね」と皓に言った。
「え、じゃあ俺も“結菜”って呼び捨てで呼ぶ?」
え………。ダメだ、“結菜”は。
咄嗟に思った。
かつてわたしのことを、“結菜”と呼んでいた男性の顔が思い浮かんでしまったから。
考えなしに、『いいね』なんて言わなけりゃ良かった。
「ううん……“結菜”はイヤ。………“結”って呼んで欲しい」
誰かに“結”って呼ばれたことは、未だかつて無かった。
ん?
頭によぎる言葉があった。
『“皓平”は嫌だな』
『誰にも呼ばれたことない。“皓”にして』
そうか…。
こういう意味だったんだね。
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