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金持ち制裁
「ワイン会? 」
ようやく金持ちの生活に慣れてきた鯉谷は、テレビを見ながら龍羅木の言葉を繰り返した。
「そう。色んな大人とワインを飲むっていうつまらない会。詳しく知りもしないくせに『これはドコドコ産のナニナニという種類のワインだなぁ深みが違うぅ』とか言うんだよ」
龍羅木は、少し低い声で大人の声を真似た。少し誇張も入っていた。
「へえぇ」
「ふう、やっと鯉谷くんの出番だね」
「そうだなぁ。よし、いっちょ老○共をビビらせてやるか」
鯉谷は改めてサングラスとスーツを着用し、龍羅木と共にリムジンへ乗り込んだ。
車内では、龍羅木が鯉谷に万一の忠告をしていた。
「いい? たとえムカついても殴ったりしちゃダメだし、暴言も吐いちゃいけないよ? 」
「え? じゃあどうやって会話すりゃいいんだよ。会話は普通殴り合いからだろ? 」
「......先が思いやられるなぁ」
-数分後-
いつものリムジンに乗って着いたのは、有名らしい高級レストランであった。
「ここを貸しきってるんだって。勿体ないことするよね」
「はひょー。そんなん想像もつかねぇな」
テクテクと店に入っていく龍羅木を、鯉谷は急いで追いかけた。
「龍羅木様とお連れ様ですね? 会場はこちらでございます」
ウエイトレス風の男が2人を案内する。レストランにしては広すぎる構造で、何部屋も分かれているようだ。それぞれの部屋を貸しきって使うということなのだろう。
「こちらでございます。ごゆっくりお楽しみくださいませ」
そこでは、恰幅のいい男たちがタキシードを着てワインを嗜んでいた。
「おお、龍羅木くんじゃないか。仕事は順調かね? 」
龍羅木に話しかけて来たのは、the 金持ちと言う感じの男だった。どこかの社長だったりするのだろうか。
「ええ、おかげさまで」
「それは何より。ところで、そちらの男は誰だね? 」
男は鯉谷を指さした。
「ああ、僕のボディーガードです。最近は物騒ですからね。僕という人物との太いパイプを結ぼうとする悪い人から守ってもらうために、彼を」
鯉谷がサングラスをずらして威圧感のある目元を見せると、男は龍羅木の話も相まって少し怯んだ。
「あ、ああそうかい......くれぐれも気をつけなさい」
男はワインを持ちながら人混みに消えていった。
「ふふ、見た? あの顔」
「ああ、俺等にビビってやがったな」
「これなら安心して過ごせそうだよ」
しかし、そんな安堵は長くは続かなかった。
鯉谷は喉が乾いていたため、配られていたワインを飲んだ。するとそれを見ていたどこかの社長が来た。
「君君、ワインはただ飲むのではない。目で見て鼻で嗅ぐ。それから飲むのだよ。まずはワイングラスの側面にワインをつけてだな」
「いやいい。喉乾いてただけだ。それにしても酒はマジィな」
「な!! そのワインは超高級品だぞ......龍羅木くん! 彼の教育はどうなっているのだね!? 」
遠くで他の社長たちと話していた龍羅木が急いで駆け寄ってきた。
「す、すみません! 彼はあまり人と関わるのが得意ではなく」
「そんな人を側に置くんじゃない! まったく、非常識にもほどがあるぞ」
一通り罵倒が終わると、鯉谷が男に話しかけた。
「......おいおっさん」
「誰がおっさ......」
何が起きたのか一瞬理解できなかった。あまりにも異常なことであるため、状況の解析に時間がかかった。
鯉谷がワインを社長の顔にかけたのた。
「ヘマしたのは俺だろ? なんでそこで翔太が出てくんだ? 」
「ぐぐぐぐ、君を私の会社が運営する公共施設へ入るのを禁じてもいいんだぞ!! 」
「いいぜ。テメェみてぇなやつの施設なら入りたくねぇ」
「こ、鯉谷くん......」
「この......警察を呼ぶぞ!! 私の威厳を傷つけた罪だ!! 」
社長がそういうと、鯉谷はご自慢のハイキックを寸止めで食らわせた。
「ひぃ!! 」
「呼んでみろよ。警察が来るまでお前の身の保証はできねぇが」
「......ぐ」
男は怒りで顔を赤くしながら人混みに消えていった。
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