始まり

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始まり

「絶縁だ。もう二度と顔を見せるな」 実の父親から言われた最後の言葉である。 高校を卒業してからの一年間。彼、鯉谷 勝吾はやることも見つからず、せっかく入った大学にも行かずに、ダラダラと過ごしていた。 そんな時に実家に呼び出されて、父親が言い放った言葉が例のソレである。 少し酷すぎることもあるかもしれないが、正しいといえば正しい。しかし、当時の彼は若かったこともあり、理解ができずに荒れていた。 「......チッ、クソ......」 若気の至りとでも言おうか、彼は残り少ない貯金をパチンコに溶かした。当然金は無くなり、ホームレス同様の生活を余儀なくされた。 「......」 「おいおいこのクソガキ」 「は、はい......」 「お前だなこの辺のホームレスは。お前みたいなのはこの世にいちゃいけねぇんだ。死ね! 」 彼はホームレス狩りにサンドバッグにされた。転んで擦りむいても、絆創膏一枚買う金もない。傷口から細菌が入り、幾度となく膿が生じた。 そして、彼はついに奪う側に回った。 「おいお前......」 「は、はいぃ」 「金よこせよ。死にたくねぇんだ! 」 いつしか、他のホームレス連中が物乞いや空き缶拾いで稼いだ金を奪い取るようになった。よわっちいジジイばかりで、簡単に脅すことができた。 そのうち、彼はホームレス数十人を束ねて、みかじめを取るようになっていった。一日を過ごすぐらいの金はそれで入手できた。 ほぼ、ホームレスたちのボスだった。 「鯉谷さん! 」 ある日、段ボールハウスに部下のホームレスが慌てて入ってきた。 「なんだ......? 」 「ここもそろそろ警察が来る。別のところへ行かねぇと」 「チッ、ポリ公が調子乗りやがって」 それから数十日滞在した公園を出ていき、新しい住みかを探した。 そして見つけたのが、今彼が住んでいる『寿幸せ街』である。 本物の無法地帯だ。住んでいるのは、元受刑者や現役の犯罪者。貧民街を転々としている喧嘩自慢や極道上がりのチンピラ。様々な人種がいるが、まともな人間はいない。 そんな場所で過ごして、彼は人間の世界の裏側にあるようなドス黒いものをたくさん見てきた。人間が極限に陥るとどうなるか、リアルに体験した。 そして彼は、貧民街で生きる術を学んだ。 「お前かぁ? 新人のホームレスってのは? 」 「ああ、そうだ」 「へへ、先輩には挨拶しねぇとなぁ!! 」 「......今だお前ら! やれ!! 」 狭い路地に一人の人間をおびきだし、挟み撃ちにしてなぶり殺す。 どんなに姑息な方法でも、それが生きるための道であるなら、彼は手段を選ばなかった。 非人道的な、貧民街ならではの武術も身につけた。そのお陰で、彼は貧民街のボスと呼ばれるまでに成り上がった。 『鬼畜の鯉谷』と聞いて、知らない輩はいなかった。彼のお気に入りの黒いパーカーを見るだけで、失禁する者までいた。 絶縁になってから数年後のある日、珍しく表の世界に出てきた彼は、歩道をごく普通に歩いていた。 「......ッ! 止めてくれ! 」 すると、そばに一台のリムジンが止まった。すぐさま降りてきた男は、彼にとって見覚えがあった。 「久しぶりだね! 僕のことを覚えているかい? 」 「......もちろん」 高校の同級生だからな。
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