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再会 そして豪快
詳しい話は車に乗りながらということで、いかにも高そうなリムジンに乗った。車内はパーティーが出来るような空間となっており、中心にテーブル。それを囲うように座席があった。発車すると、鯉谷の向かいに座る彼は、どこからかシャンパンを取り出した。
彼は名前を、龍羅木 翔太という。
「いやぁ、それにしても久しぶりだね。今まで何をしてたの? 」
「......貧民街を練り歩いてた。さっきも生意気な新人を半殺しにしてきたとこだ」
「ええ!! 凄いな......ちょっと、このシャンパン開けてくれる? コルクが飛ぶのが苦手で......」
渡されたシャンパンは、有名なブランドのもので高級品だったが、五年を貧民街で過ごしてきた鯉谷にとって、そんなものはわかるはずがなかった。
「コルク開けなくても、これでいいだろ」
鯉谷は、目の前のテーブルにシャンパンの口を叩きつけ、割って開けた。
常識が欠如しているのは仕方がなかった。
「ウギャア!! ワイルドだねぇ......! 」
「そうか? 別に普通だと思うが」
鯉谷は、泡立ち溢れるシャンパンを龍羅木のグラスに注いだ。その後、自分でもシャンパンを飲んだ。直飲みである。
しかし鯉谷の口には合わず、入れた瞬間吹き出した。
「......マッズ! なんだこれ......」
「はは、そうだよね。知り合いの実業家の方から、美味しいから飲んでみなって頂いたんだけど、お酒なんてどれも不味いと思うんだ。大人は汚いものに慣れてるから、美味しいと感じるんだと思う......」
龍羅木は、何か思い詰めたようにうつむいた。それを見て、流石の鯉谷でも落ち込んでいるというのは分かった。
「何か、あったのか? 」
「聞いてくれるんだね。優しいなぁ」
柔らかく微笑んだ龍羅木の長いまつげには、涙が滴っていた。
「実は、起業して成功してからというもの、色んな大人が声をかけてきてね。僕という人間との太いパイプを作ろうとする悪い大人ばかりなんだ。そんな生活に嫌気が差してきて、当時の同級生に声をかけたんだけど、皆汚い大人になってた......そこで、君に頼みたいんだ! 」
龍羅木は、男とは思えない可愛らしい顔立ちで、鯉谷を真っ直ぐに見つめた。テーブル越しに、何かにすがるように手も握った。
「今日から僕の」
付き人になってくれないかな。
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