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母は何でもないことみたいに口からすらすらと呪文みたいに言葉を発したが、私にはとうてい信じられない事実だった。ナオちゃんは神様みたいな人だから、死とは無縁……いや、本当はものすごく近くても遠いものだと勝手に思い込みたかっただけなのかもしれない。
私が今、普通の大学生で普通の女の子で普通の人間でいられるのは、全部ナオちゃんのおかげだと思っている。
小学生のころの私はちょっぴり普通でなくて、いつも不安ばかりが渦巻く海面を歩いているみたいな子どもだったけれど、ナオちゃんのおかげで一歩前に進むことができた。この約九年の間、一度だってナオちゃんを忘れたことはない。会うことはなくても離れていても、ナオちゃんを守ることができるのは私だけだと思っていた。
真っ青になる私の顔を見て、母は悪気なくむげに言葉を言い放った。
「死ぬ前に会いに行けばよかったね」
会いに行けばよかっただろうか。そんなことより私はナオちゃんに生きていてほしかった。会えなくても生きていてほしかった。この世にナオちゃんが生きているというだけで私の誇りだった。でももう生きてさえいない。ナオちゃんを守ることができなかった自分の不甲斐なさに愕然とした。今まで私は何をしていたのだろう。
ナオちゃんがあの海の祠で言っていた言葉を思い出した。
「あんまり言いたくなかばってん…………何かあったらイヤやろ?何かある度にこの祠を思い出して、ここに来たせいかもしれんって毎日ビクビク過ごさんといけんくなる」
彼の心配は見事に的中し、私はすぐに海の祠のことを思い出した。
あの日祠なんかに行かなければよかった。行かなければよかったと思うのに、心のどこか隅っこの方ではやっぱり行ってよかったと思う自分もいて、必死に首を横に振る。
ナオちゃんはまだ二十歳という若さなのに、女の子と一緒に死んでしまった。
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