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「働けど働けど貧乏で、嫌になる。」
彼女は大声で笑いながら、うちが貧乏だということを自慢する。
彼女とは、僕の母だ。
彼女は、背も高く横も広い大きな女の人だ。
ハリケーンみたいな性格をしていて、母が近づくと母に飲み込まれそうになる。
そんな母が言うには、僕が産まれて10年経つが貧乏神が同居していて僕の家庭が壊れるのを狙っているらしい。
母と父が引越してきたこの家は、どことなく寂れていて水漏れや、あらゆる箇所が壊れている状態だった。ハリケーンである母は大家さんに掛け合い住める状態にしてもらい現在まで借りている。
しかし、綺麗だった家にある時ネズミが現れあちこち穴だらけにするし、だんごむしやら、ナメクジが大量発生するホラーな家になっていった。
もちろん、僕と弟が壊した数々の場所もあるけどね。
母は困難がおきるたびに頭を回転させ、感情を吐き出したり、名案を思いついたといい行動したりと忙しくしていた。
父はといえば、こちらは静かな人だ。
マイペースで何が起ころうと気になどしない。
たぶん明日全てが崩壊しようが、父は何も感じないのかもしれない。
現にネズミの穴が見つかっても淡々と穴を塞ぎネズミとりを仕掛け、時を待っていたのだから。
母は今日ママ友を家に呼んだのだ。
こんな汚い家によく人を呼ぶ気になれると思うのだが、母は気にしてないようだ。
ママ友たちは、いつもきまって同じ話をする。
夫がどうだとか、子どもの学校がどうだとか、最近のスーパーはどうだとか。
同じ話を何度も聞いて飽きないのだろうか。
前回と同じ場所で笑い、前回と同じ場所で怒る。
大人は不思議な生き物である。
母の大声によると、新学期にかかるお金が高いみたい。僕が中学校に上がるため制服、バッグ、靴あらゆるものを購入したためすっからかんになってしまったらしい。
母のパートでは追いつかないから、宝くじが当たってほしいと言うのだ。
母は毎回そう言い続け、実際に宝くじを買い物ついでに毎回買うが当たった試しがない。
さてピンチである。彼女はどうするのが良いかまたいつもみたいに頭を回転させている。
「私、ユーチューバーになろうかしら。
ひよこを育てて、大きくなった時に食べる。」
ひよこを育てる番組がバズる可能性を僕は知りたい。しかも食べちゃうなんて怖い。
しかし母は満更でもない表情をしている。
いずれ何処かからひよこが届くのだろうか。
僕はふと窓の外を眺めぼんやりと思考停止した。
もう一度母に目線を合わせると、母に何かがついているのだ。ドロリとしていてベチャベチャしていてとても気持ちが悪いものだ。
僕の目はとうとうおかしくなってしまったようである。
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