貧乏神は満たされない。

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「何故邪魔をしたんだ。」 僕はおじさんをつまんで家の外に出した。 おじさんは50センチくらいの身長だったが軽く感じた。とりあえず鬼は外だ。 外に出してしまえばこっちのものだ。 しかし自分の部屋に戻ると、おじさんが座っていたのだ。僕の部屋は液体でベチャベチャになってしまう。冗談じゃない。 「何故邪魔をする。」 僕はまた窓の外におじさんを出した。 しかしまた部屋にいるのだ。 何だかおじさんを見ていたら具合が悪くなってきた。母は良く平気でおじさんを背中に背負っていたものだ。 「何故邪魔をしたのだ。」 しかたない。オカルト本には喋ったら祟られると書いてあったが、しつこくされた方が良くない。 僕には宿題が山程あるのだ。 「回答するね、あんた気持ち悪いんだよ。 ぐちゃぐちゃ、ベチャベチャなその液体なに。 だいたい部屋が汚れるし他人の家に来ているのに失礼だよ。わかる。あんた小さいけど大人でしょう。気を使ってくれない。」 おじさんは、黙ったままだ。 「お腹が減っている。飯をくれ。金をくれ。買いたいものがある。」 おじさんは、喋り続けた。 あれこれ欲しがっている。 「ないよ。僕は未成年だよ。親に養ってもらってるんだから。だいたい僕の話聞いてるの。」 おじさんは尚自分の言うことを吐き出し続けている。何だかとにかく体調が悪くなってきた。 困ったので僕は押し入れをおじさんの部屋にした。 ここなら多少ベチャベチャになっても大丈夫だ。 おじさんは静かに押し入れに入った。 気に入ったのだろう。 さてどうしたら良いものだろう。 僕はとりあえずにんにくを冷蔵庫から持ってきた。 でも貧乏神はバンパイアじゃないから、効かない。 ライトの光もだめ。 今度は母のアクセサリー入れから石がついたアクセサリーを持ってきた。勾玉とかは悪霊退散のアイテムだからだ。  しかし何も効きめはなかった。 むしろ貧乏神は喜んでアクセサリーをつけた。 やはり勾玉ではないまがい物の母のアクセサリーでは役に立たないのである。 さてさて、どうしたら良いんだ。 僕は梅干しとネギをを持ってきた。 おばあちゃんが何でも効くと言っていた気がしたのだ。  しかし貧乏神は嬉しそうに一気に食べてしまったのだ。酸っぱいはずなのに美味しそうに食べ種まで食べる。ネギはシャクシャクと良い音を鳴らしながら味わっているではないか。  喜ばしてしまった。 僕は自分の頭をパチンと叩いた。 僕の頭から鈴の音がした気がした。 何だか疲れてきた僕は、とりあえず放置しようと思った。貧乏神にかまっている暇はない。 宿題を頑張らねば。 僕は進まない宿題と戦いようやく終わらせた頃には、夕食の時間になっていた。 母が僕を呼ぶと僕より早く貧乏神は移動し、父の席に座った。 父は何も気づかず貧乏神の上に座った。 「お父さん、ダッダメだって。」 僕は父に叫んだ。しかし父は貧乏神を吸収してしまった。家族は僕を見た。 「兄ちゃんこそ大丈夫なのかよ。いきなり叫んだりして。」 「あんた疲れてんじゃないの。宿題のやりすぎかしら。」 そうか、家族には見えていないのだ。 僕も今日まで見えてはいなかったんだから、当たり前だ。 今目の前で貧乏神はお父さんを操りご飯を食べている。うまそうに食べる姿が憎らしい。 食事が終わるとまたすごいスピードで僕の部屋に向ったようだ。 ごちそうさまも言わないし、食器も洗わないなんて貧乏神だからってマナーが悪い。後で叱りつけなくては。 あとは、おばあちゃんに連絡しないと。 おじいちゃんの仏壇の前で唱えているお経を教えてもらわないと。 僕は神頼みが一番の解決方法だと考えていた。 食事が終わった僕は部屋に向った。 食事後の自由時間。遊びすぎて風呂に入らないと母に叱られてしまう。  僕は今日一番に風呂をあがり、部屋のふとんで大の字になった。しばらく天井を見ていたら急に、踊りたくなった。 僕はスマホを取り出し、You Tubeを開く。 ダンスと検索しただけなのにあらゆるダンスが紹介される。 僕は今流行りの曲に合わせて踊るダンスを選んだ。 僕は踊りだした。踊ると不思議にストレスが無くなる。手や足を動かせば動かすほど身体が軽くなりもっと沢山踊りたくなる。  ふと横を見た僕はびっくりした。 思考停止。 なんと、押し入れから出てきた貧乏神が一緒に踊っていたのだ。 僕より上手に。 「踊れんのか。」 貧乏神はニャリと笑った。  
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