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和柄がらがら和柄画囉
和柄好き成人女性の和子の前に、青海波柄の卵が現れた。これも蒐集せねばと持ち帰って一晩。青海波柄の、小さな羽が生えたトカゲがいた。和子はトカゲにセイと名付けて飼い始める。
ぐずるセイを青海波柄のがらがらであやしたり、毎日話しかけたりしてセイを飼い続けると、異常な成長速度よりも驚くことがあった。なんとセイは人の言葉を理解し、人に返信も可能なのである。
「おかえり、ワコ」
「ただいま、セイ」
一人暮らしの和子は、日々の癒しと話し相手を同時に手に入れたと喜んだ。
和子が考えを変えた――改めざるを得なかったのは、一冊の古い絵本を手に入れた日を境に命を狙われるようになったからだ。なんでも和子は、画囉と呼ばれる自然を統べる王の親に選ばれたという。しかも卵から生まれるのはトカゲではなくアヒルで、そこから進化することによって画囉の能力も変わるらしい。アヒルではなくトカゲだったが!? 混乱する和子だったが、状況が考える時間を与えてくれない。
「あなたの画囉は、人に変身できるのね。それならこの子を王にするためには、あなたを倒せば!!」
鬼気迫るライバル達。それもそのはず。育てた画囉が王になると、何でも願い事が一つだけ叶えられるのだ。和柄蒐集家の和子とは本気度が違う。
和子はいつの間にか、他の親六人全員から命を狙われるようになっていた。
「わたしはただ、和柄で世界平和を願っただけなのに!! 負けたらセイとお別れなんて、絶対嫌だ!!」
和子の勝ちたいという気持ちが、セイに届いた。
最終形態の竜になったセイは、その強大な力でライバル達を一掃。画囉の王となり、全世界の自然を統べるため和子の前から姿を消した。
世界には、和柄が溢れている。和柄は日本の心として、地球で生きる全人類が認めた。アニメや様々な物語でも活用され、和柄ごとに派閥が生まれてどの和柄が一番素晴らしいかを討論するニュースの特集が週一で組まれている。戦争も紛争も事件も、世界からなくなった。
まさしく、和子が思い描いた世界だ。
和柄デザイナーとして様々な和柄を世に発信している和子は、いわばこの世界の神に近い。しかし和子は、セイと別れてから心にぽっかりと穴が開いたままだった。
傷心の和子を支えたのは、穏やかな日々が一変したきっかけの古い絵本。そこに、王と会う方法が描かれていた。
『辰の日、王と出会った場所へ行け』
つまりは、十二年に一度の三月にある二回の辰の日。朝七時から九時までの二時間、大雨の日のみ王と会えるのだ。王と出会った場所は王と繋がっており、全ての条件を満たせば王――セイとまた話せるのである。
和子は当然、セイと会うために努力し続けた。和柄デザイナーとして稼ぐようになっても住んでいたボロアパートを出なかった。寧ろその土地ごと買い取り、建物を補強してどんな災害にも負けないようにした。
それでも、どうしてもすぐには会えなかった。晴れだと言ったから天気予報を信じて仕事を入れたら、条件の一つでもある大雨が降る。毎年変わる辰の日を調べて絶対休日にしたら、まさかの晴天。大雨の日もあったが、そもそも十二年に一度の三月ではなかったり。仕事場から朝帰りしてしまったとき、事故や遅延に巻き込まれたり。
時は残酷なもので。すべての条件が揃う今日、和子は老婆になってしまっていた。
和子の前に、閃光が出現する。その眩しさに思わず目を閉じてしまう。眩しさが弱まり目を開けると、記憶の中よりも少し大人びた、人の姿のセイがいた。
戸惑うような顔をするセイ。しかし年をとってもすぐに和子だとわかり、はにかむような笑顔を見せてくれる。
「ただいま、ワコ」
「おかえり、セイ」
ーーあぁ、長生きしてよかった。
和子は、セイを優しく抱きしめた。セイも、抱き返してくれる。セイの腕の中の和子は、安らかな顔をしていた。
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