空也の気持ち

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「では、こちらのお部屋になります」  着物を着た40代の落ち着いた雰囲気の女性に通されたのは、立派な洋間の部屋だった。 日本建築の家屋だから、全室が和室だと勝手に思い込んでいた。 立派な机とベッドに、壁に作り付けられたクローゼット。そして何故か、照明がシャンデリア。 ここだけに居ると、洋式の家に居る気分になる。 ベッドに腰掛け、一つ溜め息を吐く。 空也の背中を思い出すと、胸が痛む。 でも……『これで良い』んだと、自分に言い聞かせる。 それでも、あの時に空也の背中から感じた「悲しい」「悔しい」「寂しい」という感情を、味合わせてしまって良かったのか?と後悔の念が押し寄せる。 握り締めた手を額に当て、それでもあの場所を守りたいと思ったのは間違いじゃない筈だと自分に言い聞かせる。 「青夜ってさ、なんでも1人で決めちゃうよね」 いつだっただろうか? 赤いマニュキアを塗りながら、そう言われた事があるのを思い出した。 結婚を考えた女性だった。 でも、結局は俺の独り善がりで破局を迎えた。 彼女から言われたのは 「何でも1人で決めて、何でも1人でやれるならさ、私なんて要らないよね?」 だった。 素朴で可愛い子だったのに、別れる時は真っ赤な口紅に真っ赤なマニュキアをした派手な女になっていた。 「また……独り善がりだったのかな」 ポツリと呟いて、グッと込み上げて来る感情を飲み込む。 強引で我儘で、俺の意思なんか全く無視で……。 でも、何でだろうな? こうして離れてしまうと、たまらなく寂しい。 『青夜……』 何故だか、空也の切なく俺を呼ぶ声が蘇る。 勝手で傍若無人で……、良い所なんか容姿しかないような奴で……。 でも、いつだって俺に 「青夜、俺を選べ」 そう言って、手を差し伸べてくれた。 「俺はあんたを捨てたりしない。あんたが死ぬまで、俺が幸せにしてやる」 過去に囚われる俺に、何度もそう言ってくれた。 不思議なんだけど、空也の言葉はいつだって本音なんだと信じられた。 それに、マキちゃんや姫華ちゃんの居るあのお店は、俺にとっても大事な店だから……奪われたく無かった。 だけど……、本当にこれで良かったのだろうか。 今更だけど、そう考えていた。 その時だった。 『なんだ……、お主も落ち込んでおるのか』 と呟く声がして、窓を見たらタマが窓の向こう側からこちらを見ているじゃないか。 「タ……タマ!」 慌てて窓を開けてタマを呼ぶと 「『さん』を付けろ! この馬鹿者が!」 と、顔面にキックされてしまう。
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