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その日の夕方、姫華ちゃんは帰宅するなり
「おぉ! やっと仲直りしたの?」
と、開口一番に叫んだ。
お店にはお客さんもまばらで、のんびりとした空気が流れている。
「別に……喧嘩していた訳じゃねぇし。勝手にコイツが怒っていただけだ」
「はぁ? 俺が悪いのかよ!」
空也の発言にカチンと来て言い返した俺に
「はいはい! もう、そうやって直ぐに喧嘩を始める。空也、口の利き方! 青夜、あんたも年上なんだから、いちいち空也の挑発に乗らないの!」
と、マキちゃんに怒られた。
俺が肩を窄めると、空也がマキちゃんの背後でアクビしていやがる!
本当に、可愛く無い!!
ムッとしていると、タマがちょうど入って来たお客さんと一緒に中に入って来た。
すると、あんなに薄汚れた墨色だった毛色が、綺麗なホワイトグレーに戻っていた。
「わぁ!タマ、元の綺麗な色に戻ったね!」
そう叫んで抱き上げると、爪は出さないけど肉球でスナップをきかせた猫パンチを食らわせて来た。
「痛っ!」
と叫ぶと、俺の手からタマはスルリと抜け出して
「にゃ~」
と鳴きながら空也の足に絡まり着いた。
空也がタマを抱き上げながら
「誰のせいだ! って言いたいよな? タマ」
そう言うと、再び「にゃ~」と鳴きながら、器用に空也の肩に乗っている。
「俺のせいだって言うのかよ」
唇を尖らせて呟く俺に、空也が
「それ以外、他に居ないだろう? なぁ、タマ」
と言うと、タマは空也の意見に賛同の意を唱えるかのように「にゃ~、にゃ~」と二度鳴いた。
(くっそー! コイツ等、一蓮托生みたいな空気を出しやがって!)
そう思って見ていると、外に黒塗りのベ○ツが止まったのに気付いた。
公園と、公園のコンセプトにあった純和風の幸福屋には不似合いなベンツから、黒のパンツスーツをカッコ良く着こなした女性が現れた。
遠目から見ても物凄い美人なのが分かる程、全てが完璧に整っている。
まるで、精巧に造られたアンドロイドのように……。
その時、ふとマキちゃんの言葉が脳裏を過ぎった。
『本家のサイボーグのような女共』
そう聞いた時は、筋肉ムキムキの女性を想像していたが、実は完璧なスタイルと美貌を持った人達では無いだろうか?と感じた。
俺はベンツから降りて、こちらに歩いてくる美人を指差し
「なぁ、マキちゃん。本家の人間って、あの人?」
と訊くと、厨房から出ていたマキちゃんは、俺の指差す方向に視線を向けた。
「げぇ!桜子!!」
そう叫ぶと、マキちゃんが俺の肩を掴み
「青ちゃん、大至急逃げて!」
と、俺を厨房からリビングへと続くドアへと押し込もうとして来る。
「ちょっ……!マキちゃん。痛い、痛い」
肩を掴む腕が痛くて叫ぶと、ガラリとお店の引き戸が開いた。
「空也! お前、穢れを溜め込んでるらしいな! ちゃんと抜いてるのか!」
凄い美人が、右手でアレを扱く仕草をしながら入って来た。
「溜め込む前に、出せっていつも言ってるだろうが!」
そう叫びながら、俺を隠そうとした状態のマキちゃんと、呆れた顔をして溜め息を吐き出した空也。ムンクの叫びの顔をした姫華ちゃんを見た後、ゆっくりと俺の顔を見た。
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