空也の異変とサイボーグ桜子

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空也の異変とサイボーグ桜子

 あの日以来、俺と空也は言葉を交わす事が無くなった。 空也は元々、口数が多くないから、たいして変わらないと言えば変わらない。 ただ、食卓の空気が異常に重い。 そんな中、お店は繁盛しているので、オープンしてしまえば慌ただしく一日が終わる。 姫華ちゃんが学校に行っている平日のオープンからランチは、俺と空也で店を回すので結構ハードだ。 (俺が働く前は、空也一人でホールを回していたと聞いて、思わず尊敬の眼差しをした程だ) 「でも、正直な話。青ちゃんが来るまでは、ここまで忙しかった訳じゃないのよ」 いつだったか、マキちゃんがそう言っていた。 俺が来る前までは、空也目当てのマダムとOLがたま~にランチに来る位だったそうだ。 今では、ランチ時になると店の前に行列が出来る程に賑わっている。 「2番テーブル、Aランチ三つ」 厨房に叫びながら、オーダー票を所定の位置に貼って行く。 すると入れ替わりに空也が厨房に 「BとC」 とだけ叫んだ。 すると厨房から 「は〜い」 とマキちゃんの声がして、オーダー票を貼っている空也の横顔をチラリと見た時、少し顔色が悪いように感じた。 「空也……」 思わず腕を掴んで声を掛けると 「なに?」 無表情の空也が俺を見下ろした。 「顔色、悪いぞ。体調が悪いんじゃないのか?」 そう訊くと、俺の手を払って 「俺の顔も見たく無いんじゃなかったのかよ」 と呟いた。するとそのタイミングで 「はい!先のA定食3つ、お待たせ!」 のマキちゃんの声が聞こえて、払われた手でトレイを持ち、出された定食をトレイに並べて2番テーブルへと運んで行く。 (か……可愛くねぇ!) 確かに、顔も見たくないとは言った。 だけどさ、心配している人間にあんな態度取るか?普通! そう思いながら、イライラした気持ちを心の奥底に蓋をしてランチタイムをなんとかやり過ごした。 14時を過ぎて、お客さんも落ち着いた頃、時間差で俺と空也の食事になる。 今週は空也が先に飯を食うので、俺が店で接客していると、入り口で学校帰りの女子高生2人組が 「あれ? この猫って白じゃなかった?」 と叫んだ。 「あ!本当だ!え?こんな色だったっけ?」 二人の会話が気になり、思わず店のドアを開けてタマを確認すると、ホワイトグレーだった毛の色が、薄墨色になっているじゃないか! 「く、く、く、空也! た、た、た、タマが!タマの毛の色が!」 余りの驚きに、接客を放り出してリビングに駆け込むと、食事も取らずにソファーで空也がグッタリしていた。 「空也! やっぱりお前、体調が悪かったんだな! 何で言わないんだよ!」 すると空也は、俺の腕を掴み 「あんたが一緒に寝てくれないからだろうが!」 と叫ぶと、強引に腕を引いて抱き寄せると唇を奪った。 しかも……触れるキスじゃなくて、ベロチューしやがった! 「んっ……ふぅ……」 貪るように食いつくようなキスが、段々と甘い蕩けるようなキスに変わって行く。 腰に甘い痺れが走り (こいつ……キス上手い!) 思わず背中にしがみつき、流されそうになったその時だった。 「青ちゃん! 空也! お店、誰もいないんだけど!」 と叫ぶマキちゃんの声に、ハッと我に返った。 慌てて空也を突き飛ばすと、唾液で濡れた唇を親指で拭い 「ご馳走様でした」 そう言うと、ニヤリと微笑んだ。 そして伸びをすると 「あー! やっぱり、あんたからエネルギーチャージしないと体調悪くなる」 と叫ぶと、一気に昼の賄いであるチャーハンをかきこみ 「俺が戻るから、あんたは昼休憩取ってろよ。メシはマキに言っとく」 そう言いながら店舗へと歩き出すと 「その間に、あんたのソレ鎮めときなよ。マキに襲われるぞ」 と言いうと、悔しいけどアイツとのキスで勃った俺のモノを指差して片頬だけ上げて笑う。 俺が近くにあったクッションを掴んで投げ着けると、空也は声を上げて笑い出した。 ……当たり前なんだけどさ、いつも仏頂面しかしていない空也の笑顔を見て『空也が笑った』って、なんか嬉しくなった。 すると空也はニヤリと笑い 「そんなに嬉しそうな顔をする程、良かったのか?俺とのキス」 そう言われて、思わず赤面してしまう。 「んなワケあるか!」 俺が叫ぶと、空也は笑いながら店舗へと歩いて行った。 この時の俺は、悔しいけど空也の笑顔がもっと見たいって……そう思ったんだ。
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