空也の異変とサイボーグ桜子

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 実際、間近で見た本家のサイボーグ女の中でも、最強の女と言われている桜子さんは、息を呑むほどの美女だった。 スラリと伸びた手足に、ボンキュッボンのスタイル。背中の半分位はある漆黒の長い髪の毛を下ろし、小さな卵形の輪郭に、まるで精密機会で作られたかのように、顔のパーツが配置されている。美しく整えられた眉、スーっと通った鼻に、切れ長の目、程よい厚みのある唇が置かれており、この世のものとは思えない程の美女だった。 その美女が、ナニを掴んだ手で扱く仕草をしながら 「溜め込む前に、出せっていつも言ってるだろうが!」 と叫びながら入って来た。 ……うん、きっと夢を見たんだよな。 そうだ、そうに違いない。 自分にそう言い聞かせていると、美女が俺に気付いて固まった。 そして突然、顔を真っ赤にすると 「やだ! 何で新しい人が居るの?」 そう叫ぶと両手で顔を隠した後、キッとマキちゃんを睨み付け 「真樹(まさき)! 新しい人を雇ったら、連絡しなさいっていつも言っているわよね」 と言うと、俺の肩を掴んで固まっているマキちゃんの右手首を掴み 「しかも、隠そうとしていた訳?」 そう呟いた瞬間 「痛い! 痛い! 桜子、料理出来なくなるから!」 マキちゃんが痛そうに顔を歪めて叫んだ。 「あの!マキちゃんが料理出来ないのは困るので、止めて下さい」 慌ててマキちゃんの腕を掴む桜子さんの手に触れると、桜子さんがパッとマキちゃんの手を離して俺が触れた手を反対側の手で押さえながら数歩後退った。 そしてマキちゃんや空也、姫華ちゃんを指差すと 「あんた達、卑怯よ!私の好みのタイプを雇うなんて!」 そう叫んだのだ。 「え?」 思わず赤面して反応してしまうと、桜子さんが俯いてプルプルと震え出した。 その瞬間、空也が俺の身体を背後から抱き寄せ、突然、桜子さんの頭を掴んだ。 「ちょっと空也! 何するのよ!」 「お前、今、コイツに抱きつこうとしただろう?」 地を這うような声で空也が言うと 「良いじゃない! 減るもんじゃないし!」 そう桜子さんが反論した。 「はぁ? 減るだろう?」 「あんたがそんだけ吸い取って大丈夫なんだから、私なんて蚊に刺された程度でしょう!」 「ダメだ! コイツの全ては俺のモノだ」 空也の言葉に、店内から 「ひゃあ!」 と叫ぶ声が聞こえて、頭上で繰り広げられる言い争いも気になるが、店内に居た数人のお客さんの反応が怖い。 「く、く、空也? お前、何言ってんの?」 作り笑いをしながら、何とかこの場を乗り切ろうとした俺に 「お前は黙ってろ! 口出しするなら、さっきみたいに塞ぐぞ!」 と叫ばれ、反射的に口を両手で隠してしまった。 ……店内には、女性のお客さんが数人。 みんな、俺と空也に生暖かい視線を送っている。 (違う! 違うんだぁ~!) 心の中でそう叫ぶ俺を他所に、空也と桜子さんのバトルは続いていた。
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