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「そ……そうなんだ」
微妙な顔をしている俺に
「この話はね、青ちゃんにも関わる話なんだから、恥ずかしがらずにちゃんと聞いて!」
と、マキちゃんに真剣に言われてしまう。
「アタシ達一族には、生まれながらに運命の番というのが居るの。出会えるのは、ほんのひと握りと言われていてね。運命の番は、出会った瞬間に分かるんですって。まぁ、アタシは出会えなかった方なんだけどね」
そう言うと、マキちゃんは小さく肩を窄めて笑った。
その笑顔はまるで、泣いているみたいだった。
「能力が強ければ強い程、運命の番に出会うと一目で分かるらしいの。だから、空也は青ちゃんに出会った瞬間、自分の運命の番だと分かったらしいのよ。それにね、運命の番はSEXをしなくても、陰の気質の穢れを払う事が出来るらしいの。だからね、別に空也は青ちゃんの意思を無視して「運命の番だ」と言っている訳じゃないのよ」
と言うと
「運命に抗えないって、知っているだけなの」
そう続けた。
「アタシね、五道家では珍しい陽の気質を持って産まれて来たの。アタシの相棒はね、五道家の中でずば抜けた能力の持ち主だった。アタシの小さな能力なんて必要無い位に、全てを一人でこなしてしまう人だったわ。次期、五道家当主になるべく、期待されていた人だった。でもね、彼は運命の番に出会ってしまったの。その人と一緒になる為に、五道家を捨ててアタシとのコンビも解消して姿を消してしまった……」
マキちゃんの言葉から、その人の事をマキちゃんは愛していたのだろうと感じた。
「再会した時は、もう冷たくなった姿だった」
ポツリと呟いた言葉だったけど、その時のマキちゃんの悲しさが痛い程に伝わって来た。
「そして、彼の忘れ形見の空也と姫華に会った時、アタシは母親としてこの子達を育てようと決めたの!」
握り拳を握り呟いたマキちゃんの言葉に、俺は目を点にした。
「え? そこは父親じゃないの?」
とツッコミを入れると
「はぁ? 雪夜の代わりなんて、アタシが出来る訳ないでしょう! それに、アタシは雪夜の番になりたかったの! だから母親なのよ!」
テーブルを叩いて力説している。
「だから、その日からアタシは女になったのよ」
そう続けるマキちゃんに、俺には分からないけどマキちゃんにはマキちゃんなりに信念があって女装している事は、なんとなく分かった。
マキちゃんは、その「雪夜」という人を深く愛していたのだろう。
その切ない思いに、俺も切ない気持ちになって黙っていると
「ただ……、まさか空也が雪夜そっくりに育つなんて……」
そう呟くと
「そりゃあ、親子だから似るだろうとは思っていたわよ!でもさ、まさか生き写しになるとは思わないじゃない? しかもよ、見た目は雪夜にそっくりな癖に、性格は真逆なのよ! 酷くない? しかも、同じバリタチだなんて……。雪夜はね、タチよりネコ寄りだったわけ!見た目が生き写しなら、そっちも似るべきだと思わない?」
真顔で力説され、俺はさっきまでの切なくなった感情を返して欲しいと思ってしまったよ。
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