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呆れた顔をしている俺を無視して
「神様って、何処までもアタシに意地悪なのよ!」
と言いながら、マキちゃんはハンカチを出して泣き出した。
「えっと……?」
戸惑う俺に、姫華ちゃんは顔色も変えずに
「パパの話をすると、マキちゃんはいつもこうなるの。気にしないで」
そう言いながら、お茶を飲んでいる。
「マキ、泣いてないで話を先に進めろ」
俺の背後から空也の声が聞こえると
「雪夜だったら、もっと優しく言ってくれたのに……」
おいおいと泣いているマキちゃんを、空也は『うっぜぇ』と顔で言っている。
「マキちゃんは、その雪夜さん?が大切な人だったんだね」
ちょっと慰めるつもりで言ったこの一言が、命取りになってしまった。
姫華ちゃんと空也が「あ!バカ!」と、小さく呟いたのを聞いたかと思ったら、この後1時間。
いかに雪夜さんという人が素晴らしく、どれだけマキちゃんが愛していたのかを切々と聞かされるハメになった。
途中で姫華ちゃんはお菓子を持って来たり、空也に至っては俺達の後ろの席で寝始める始末。
まぁ……そのお陰で、俺は2人の父親がどれだけ凄い人物で、五道家にとって大切な存在だったのかを知る事が出来た。
ただ不思議だったのが、2人の母親について一切話題に上らない。
どんなに憎い相手だったとしても、少しは話題に出ても良い筈だ。
しかもマキちゃんの口調からして、別に敢えて話題にしないのとも違うような気がして不思議だった。
心ゆくままに雪夜さんへの熱い思いを語って満足したマキちゃんに
「あの……1つ質問して良いですか?」
と言うと、マキちゃんは目を輝かせて
「え?何? もっと私と雪夜との切なくも悲しい悲恋の話を聞きたいの?」
そう返したマキちゃんに
「あ、いや。話したく無いなら良いんだけど、2人の母親とは会った事が無いの?」
と聞いた瞬間、マキちゃんが凍り付いた。
(あれ?やっぱり、触れちゃダメな話題だった?)
そう思って「やっぱりいいです」と言おうとすると
「こんだけ親父の話を聞かされたら、そりゃ~当たり前の質問だよな」
空也はそう言うと
「五道家の人間は、誰もお袋に会った事が無いんだ」
と答えた。
「会った事が無い?」
「あぁ……。初めて桜子がお前に会った時の反応を、お前も見ただろう?五道家の人間は、陽の気質を持つ人間に飢えている。そんな人間の目の前に、突然、陽の気質を持つ人間が現れたら、奪い合いになって親族間で血の雨が降る事になる。特に、能力が強ければ強い程、陽の気質を持つ人間を必要とするんだ。だから親父は、お袋と出会い結婚するまでお袋の存在をひた隠しにしていたんだよ」
そう答えると
「まぁ……結局、マキの兄貴の五道哲真が親父とお袋の居場所を突き止めちまったけどな」
と言って遠い目をした。
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