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この後、五道哲真という人物の話になった。
マキちゃんの兄であり、現五道家の頂点に居る人物らしい。
その能力は、空也や姫華ちゃんの父親だった雪夜さんには劣るものの、雪夜さんが亡くなった今、彼以上の能力者はまだ居ないらしい。
「我が五道家の中で、一番の鬼よ!」
鼻息荒く叫んだマキちゃんに、空也と姫華ちゃんまで頷くんだから、余程なんだろうな……。
現代日本の影で暗躍する五道家。
政治家は得てして恨みを買いやすい。
そんな恨みを払い、二度と恨みを持った人間と出会わないようにするのが本家の仕事らしい。
(払われた人間は、恨みの感情も無くしてしまうんだとか)
五道家を味方に付ければ向かう所敵無しと囁かれる程に、その力は絶大なのだと言う。
そんな五道家が表に出て来ないのも、五道家の力の賜物らしい。
払われた人も依頼した人も、その事に関した記憶は払いが終わると全て消滅してしまうんだとか。
政治家の人でさえ、顔や名前を忘れてしまうという。
名刺も特殊な力を付与してあるらしく、依頼が終了すると消滅してしまうらしい。
携帯やスマホに登録された名前だけが残るので、大概が「誰だろう?」と消されてしまうんだそうだ。
そんな五道哲真には妻と二人の子供が居るらしいが、驚いたのが、五道哲真の妻というのが空也達の母親らしい。
哲真は空也達の母親の記憶を奪い、五道家の本家で半ば監禁に近い状況で一緒に暮らしているそうだ。
本来なら空也達も本家から出られない決まりらしいが、空也達の顔を見ると、空也達の母親が記憶を戻そうと意識障害を起こすことから、マキちゃんを傍に置く条件で外で暮らす事を許して居るらしい。
「雪夜を殺したのは、兄貴だと言っても過言じゃないのよ!」
マキちゃんは突然そう叫ぶと
「大きな仕事を雪夜一人にやらせて、穢れを一身に浴びた雪夜を陽菜さんに会わせなかったんだもの。そりゃあ、いくらある程度は自分で浄化できるとは言え、雪夜だって穢れにやられてしまうわよ」
と言って涙を拭った。
「アタシがもっと力が強かったら、雪夜を助けられたのに……って何度も思ったわ」
そう呟くマキちゃんに
「親父は……あれで良かったんだよ。今のお袋を見るのは、親父には辛いと思うから……」
ポツリと呟いた空也の横顔は、何処か切なそうに見えた。
「でも……」
「俺はさ、もうお袋の記憶は戻らない方が良いと思っているんだ。どうであれ、親父以外の男の子供を産んでいるんだ。記憶が戻れば、お袋は正常で居られなくなる」
そう言うと
「それに、俺達が五道を名乗らずに、お袋の旧姓を名乗っているのを許してくれて、俺達を学校にも行かせてくれた。それは、あの人なりの懺悔だと思っている。陽の気質をもった人間に、五道家の人間が惹かれてしまうのは……仕方の無い事だからな……」
と続けた。
「でも、ルール違反じゃない!本来、番になった相手を奪ってはいけないルールだわ!それを……全ての記憶を失わせてまで奪い取るなんて」
マキちゃんの言葉に、空也はガラス玉のような瞳で
「多分、あの穢れはお袋でも昇華出来なかったよ。親父を失ったら、お袋は生きては居られなかった。だから……哲真伯父さんの選択は間違ってはいないよ」
ポツリとそう呟いた。
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