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幸福屋から車で走る事1時間。
都内の一等地ある、立派な平屋一階建の日本家屋に連れて来られた。
車から降りて、思わず口を開けて建物を見ていると
「あ、ごめん。ちょっと良いかな?」
そう言うと、俺の頭の上と肩、腰、足元で指を鳴らし
「うん、これで空也の匂いが消えた。さぁ、入りたまえ」
と言うと、旅館みたいな広い玄関のドアを開いた。
するとパタパタと足音が聞こえて、奥から綺麗な女性が現れた。
「哲真さん、おかえりなさい」
「あぁ、ただいま。陽菜」
五道哲真の上着を脱がせ、そのまま預かる女性の顔を思わず見てしまった。
五道陽菜……と言う事は、空也と姫華ちゃんの母親だ。
その人は色白で細身の、線の細い綺麗な女性だった。とても3人の子供を産んだようには見えない。しかも、下手な芸能人よりめちゃくちゃ綺麗な人だった。
(さすが、あの空也と姫華ちゃんの母親なだけはある)
思わずガン見してしまっていると
「あら? お客様?」
と五道陽菜さんが、五道哲真に聞いていた。
「あぁ。例の、桜子が失恋した相手だ」
「まぁ、あの噂の?」
そう言うと、五道陽菜さんは俺の顔を見上げて
「まぁまぁ、本当に可愛らしいお方ですわね」
両手を口元の前で合わせると、そう言って微笑んだ。
「初めまして。私は桜子の母親の陽菜と申します」
上品な奥様という感じの五道陽菜さんを見て、空也と姫華ちゃんが「あれで良いんだ」と納得した理由がなんとなく分かった。
記憶云々はどうであれ、この人は今、この五道哲真を愛しているのだろう。
お互いを見つめる眼差しは、愛しい人を見ている瞳だし、仲良く並んで歩く姿は、仲睦まじい夫婦そのものだった。
この姿を見せられた二人は……どんな気持ちだったのだろうと、胸が痛んだ。
すると奥から空也に似た少年が現れ
「父様、おかえりなさいませ。こんな朝早くにお客様ですか?」
と、俺の顔を見た。
中学生なのか学生服を着ていて、ちょうど通学する所だったようだ。
「あぁ。彼は、小林青夜君だ。お前の兄になるかもしれない人だよ」
そう言われて
「えぇ!」
と思わず叫んでしまうと、彼は人好きするような笑顔を浮かべ
「やはりそうでしたか。桜子姉様の好みの方だな〜っと、思っておりました。それに、とても素晴らしい陽の気質をお持ちですね」
そう言ったのだ。
「小林様。桜子姉様を、よろしくお願い致します。それでは、僕は学校がありますので。又、お会い出来たら嬉しいです」
にっこり微笑んだ顔は、何処か姫華ちゃんにも似ているような気がした。
そんな事を考えて彼を見送っていると
「青夜君、こっちだよ」
と、五道哲真が再び歩き出した。
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