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「うっわぁ~!」
通された部屋は、めちゃくちゃ広い畳の部屋だった。
(これ、何畳あるの?)
公民館とかで宴会場に使われる部屋くらいにだだっ広い部屋に通され、思わず空いた口が塞がらずに部屋を見回した。
い草の良い香りと、頻繁に畳みを替えているのだろう。綺麗な緑色の畳みが敷き詰められている。
枚数を数えたら、24枚あってビビっていると
「狭い部屋で済まないね」
と言われ、どんだけ金持ちなんだよ!って心の中で突っ込んでいると、襖が静かに開いて
「失礼致します」
そう言って、和服姿の女性が入って来た。
だだっ広い部屋の真ん中に鎮座しているテーブルに、その女性は静かにお茶とお菓子を並べると、ニコリと微笑んで
「ごゆっくり」
と言うと、静かに部屋を後にした。
凄ぇ! テレビみたいだ! と思いながら、目の前に出された豆大福を見つめた。
立派な漆塗りの皿と同じ漆塗りの、和菓子用フォークが着いている。
(これ……絶対に高い和菓子だ。5個100円とかで売っている、安い大福と見た目が違う)
そう思いながら大福を見つめていると、俺の前に座っている五道哲真がクスクスと笑い出して
「きみは……思った事が口から出てしまうんだね」
そう言うと、人好きのする笑顔で笑っている。
その姿からは、マキちゃんから聞いた鬼の片鱗は一切感じられない。
そんな事を考えていて、五道哲真の言葉を聴き逃しそうになってしまい
「え?」
と聞き返すと
「報告は受けているよ。きみは、思った事が口から出ているのに気付いていないってね」
そう言いながら、五道哲真がふざけた口調でウインクした。
そして、空也と出会った時の事を思い出す。
(あいつ、もしかして俺がタマをダウニーとかマカロンとか言っていたのを聞いていたのか!)
思い出して、アイツが突然に背後で笑った理由が分かって真っ赤になる。
すると五道哲真は、クックックっと必死に笑いを堪えながら喉で笑っている。
「もしかして……」
「うん、口から出ていたね」
と言われてしまい、頭を抱えた。
「オーマイガー!!」
真っ赤になる俺に、五道哲真は楽しそうに笑いながら
「いやぁ~、こんなに笑ったのは久しぶりだよ」
そう言うと
「スーパーの安売り大福じゃないけど、どうぞ」
と俺に大福を促した。
俺が大福を見つめていると
「フォークを使わずに、手掴みでも構わないよ」
そう言いながら、器用にフォークで大福を一口大にして口に運んだ。
「ここの大福は、雪夜が大好きでね……」
ぽつりと呟くと、今度は手のジェスチャーで大福を勧めて来た。
俺はぺこりと一礼してから、大福を摘んで口に運んだ。
この大福、めちゃくちゃ美味い!!
大福の餅に入った塩っぱい豆と、餡子の甘さが絶妙なバランスだった。
あまりの美味さに、目の前に五道哲真が居るのも忘れて豆大福に夢中になっていた。
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