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「そんなに美味そうに食べている姿を見ると、雪夜を思い出すよ」
ポツリと呟いた五道哲真は、ゆっくりと窓の外に視線を向けた。
その横顔は何処か寂しそうであり、悲しそうだった。
「あの……雪夜さんの事」
俺がそう口を開いた瞬間、物凄い足音が聞こえて『スパーン』と音を立て襖が開いた。
「お父様! 青夜さんを連れていらしたって、どういう事ですか!」
と、桜子さんが現れた。
俺が驚いて見上げると、桜子さんは俺と目が合うなり土下座する勢いで三指立てて頭を下げた。
「すみません! 父が無理矢理お連れしたのですよね」
「え~! その言い方、酷くない?」
桜子さんに唇を尖らせて五道哲真が呟くと、桜子さんはキッと五道哲真を睨み
「お父様は黙っていて下さい!」
と言うと
「本当にすみません」
そう言って、何度も頭を下げている。
「あの……大丈夫ですから、頭を上げて下さい」
頭を畳に着けるくらいに頭を下げる桜子さんの肩に触れると、桜子さんが弾かれるように顔を上げた。その瞳には涙が滲んでいて、慌ててポケットに入っていたハンカチを取り出して桜子さんの手に握らせると
「確かに驚きましたけど、本当に大丈夫ですから」
そう言って微笑んだ。
するとそんな俺達を見ていた五道哲真は
「なるほどね……」
と呟くと
「小林君、きみのご両親はご健在?」
突然、そんな事を言い出した。
「お……お父様! 突然、何をきいていらっしゃるの?」
慌てる桜子ちゃんに、五道哲真は『あぁ……』と小さく呟いた後
「ごめんごめん。きみのご両親に挨拶したいという意味では無いよ。ちょっと気になった事があってね」
そう言うと
「で、どうなの?」
と聞いて来た。
「健在ですよ。小さな島で、両親共に自然の中で暮らしています。俺は高校から都内に出て、そのまま一人暮らしを継続してしまっていますけど」
そう答えた俺に、五道哲真は考え込みながら
「島から出られないのでは無く?」
と呟いた。
「え?」
「小林という苗字は、母方の苗字ではないのかな?父方は恐く……『神代』ではないのかな?」
と呟いた。
しかし、俺は物心着いた時から「小林」だったし、小林が母方か父方かなんて知らない。
「まぁ、戸籍を調べれば分かる話だ」
そう呟くと、手を叩いて黒服の男達を呼び出すと
「彼のご両親を調べろ。もしかすると、雪夜の身内かもしれない」
と言い出したのだ。
「えぇ!」
驚いて立ち上がり、しこたまテーブルに膝をぶつけてしまう。
「いっってぇ……」
蹲る俺に、桜子ちゃんが心配そうに俺の肩に触れて
「大丈夫ですか?」
と、顔を覗き込んで来た。
姫華ちゃんも美少女だけど、桜子さんは絶世の美女って感じだ。
「だ、だ、だ、だ、大丈夫です」
そんな美しい顔を近付けられたら、緊張してしまうじゃないか!
オロオロアワアワしている俺を、五道哲真は面白い玩具を見ているような顔で見ている。
(絶対、楽しんでいる!)
ムゥっと口をへの字にしていると、桜子さんが突然俺を抱き締めて来たのだ。
「可愛い! やっぱり無理! 諦められない!」
そう言ってギュッと抱き締められてしまい、桜子さんの豊満な胸の中に顔を埋められてしまう。
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