出た!五道哲真!!

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「桜子さん! 胸! 胸!」 慌てる俺に桜子さんが 「胸がどうした! 私にハグされるのも嫌なのか!」 ギュッと抱き締められて窒息死しそうになり、五道哲真の顔を見て救いを求めた。 五道哲真はひたすら楽しそうに笑いながら 「桜子、その辺にしてあげなさい。小林君が窒息死しそうだよ」 と、ようやく止めてくれた。 「え? 窒息死?」 驚いて俺を離した桜子さんではあったが、解放された俺の意識は、桃源郷が見えていた。 「きゃー! ごめんなさい」 ぐったりしている俺を、桜子さんが慌てて離してくれた。 (死ぬかと思った……) そう思っていると 「しかしお父様。何故、此処に青夜きゅんが居るの?」 と、桜子さんが五道哲真に訊いているのが遠くに聞こえる。 (青夜きゅんって……) 朦朧とした意識の中で、思わずツッコミを入れていると 「ほら、空也とばかり仲良くしているからね。桜子とも、仲良くして欲しくて来て貰ったんだよ」 (来てもらった……って。拉致したくせに!) そう心の中で叫びながら、ゆっくりと意識を取り戻す。 「青夜さん、大丈夫?」 慌てた顔をして俺の顔を覗き込む桜子さんに苦笑いを返すと 「ぼんやりとした意識の中で、お二人の会話を聞いていましたけど」 「え!」 俺の言葉に間髪入れず、桜子さんが真っ赤になって叫んだ。 (桜子さん、今はあなたの「きゅん」呼びの件は、どうでも良い案件ですから!) と心の中でツッコミを入れながら、五道哲真と向き合う。 「拉致同然に連れ出して、要件が桜子さんだけ……とは言いませんよね?」 俺の言葉に、桜子さんが口元に手を当てる。 「拉致って……」 「まぁ、多少強引ではあったけど、拉致は酷いなぁ~」 青くなる桜子さんに、五道哲真は肩を窄めて苦笑いを浮かべた。 そして俺に正面から向き合うと 「単刀直入に言う。きみは桜子と結婚して、五道家に婿養子に入ってもらう」 そう言われて 「え!」 「えぇ!」 俺と桜子さんが同時に声を上げると 「きみのその遺伝子は、優秀な遺伝子と結ばれて後世に残さなければならない。空也と結ばれたとして、その遺伝子は残せないだろう?」 そう言われて 「結婚って、そういうものじゃないと思います」 と反論した俺に、五道哲真は小さく笑い 「若いね。桜子と結婚すれば、この邸宅も五道家の持っている金、名声、権力、全てがきみの手の中だ」 そう答えた。 「桜子だって、容姿、教養全て揃っている。普通の男なら、喜ぶ条件だと思うがねぇ」 俺の気持ちが理解出来ないと言う表情をすると、再び肩を窄めた。
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