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「例え貴方はそうでも、俺は違います」
そう言い切った俺に、桜子さんが悲しそうな顔をして
「そんなに青夜さんは、私が嫌いなのですか?」
と言い出した。
「え? いや、嫌いとかそういうのじゃないです。だって、俺達はまだ出会ったばかりじゃないですか……」
苦笑いをしながら、何とか話を誤魔化そうとしていると
「出会ったばかりだから、お互いを知る必要があるのではないかな?」
と五道哲真に言われてしまう。
「うっ」と息を呑んでいると
「では、こうしたらどうかな? 取り敢えず、婚約者として1年間お付き合いをしてみて、それでも好きになれなかったら婚約解消するっていうのは」
なんて、とんでもない提案をして来やがった。
しかも、桜子さんまで手を叩いて喜び出し
「お父様、名案ですわ!」
などと言い始めた。
おい!そこに俺の意思は?と叫びたいが、そうしたら又、桜子さんが悲しい顔をするのかと思うと言い出せなくなる。
黙り込んでいる俺に
「青也君は、それも嫌なのかな?」
と聞かれてしまい、何も言い返せなくなる。
桜子さんの事は、別に嫌いでは無い。
でも、今迄の経験がブレーキを掛けるのだ。
今まで付き合って来た彼女達だって、最初から俺に悪かった訳じゃない。
ただ、みんなうだつの上がらない俺を捨てて、ハイスペックな男を選んでしまう。
さすがに暫くは恋愛したくないと思っていた所に、桜子さんとの縁談話が来ても……気持ちが乗らないのだ。
「確かに……桜子さんは綺麗な方です。俺には勿体無い位に……。でも俺は、今まで恋愛でたくさん傷付いて来たんです。だから今は、恋愛とかそういうのは本当に必要ないと言うか……」
そう呟いた俺に
「チャンスをもらえませんか?」
と、桜子さんが叫んだのだ。
「チャンス?」
「はい。1年間、私の婚約者としてお付き合いして頂いて、好きになって下さればそのまま結婚して下さい。でも、私の事を好きになれないようでしたら……キッパリ諦めます」
真っ直ぐに俺を見つめ、桜子さんがそう言い出したのだ。
「でも……」
「女性にここまで言わせて、付き合わないとか……。きみは案外、酷い男なんだねぇ~」
戸惑う俺に畳み掛けるように、五道哲真の言葉が突き刺さる。
「それともあれか? 姫華の方が好みか?」
突然、姫華ちゃんの名前を出されて
「はぁ? 姫華ちゃんは妹みたいなものです」
と叫ぶと
「じゃあ、他に何か問題が?」
そう言い寄られて、俺は黙り込む。
不安そうに俺を見つめる桜子さんの視線も痛い。
長い沈黙が、俺に重くのしかかって来る。
その時
「きみの返事次第では、あのお店はどうなるのか分かるよね?」
ポツリと言われた言葉にハッとした。
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