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「悪縁を断ち切る?」
そう呟くと
「そうだ。あの男は、もう二度とストーカーしていた女性には会えない」
人殺し変態イケメンは、刀を鞘に戻しながら答えると
「お前には、絶対にやらないからな!」
ギロリと睨まれ、俺の考えが読まれている事に驚いた。
すると『ちりん』っと鈴の音が聞こえ、刀が猫の姿になったでは無いか!
「え?……えぇ!!」
驚いて尻もちを着いた俺に
『本当に……騒がしい男だな』
と、あの高級そうな猫のくせに名前が「タマ」と言う猫が呟いた。
そして人殺し変態イケメンの肩に乗ると
『お前が主の番かと思うと、情けなくなる』
そう続けた。
「つ、つ、番?」
腰を抜かしたまま後ろに下がると
「タマ、ちがうだろう?相棒だよ」
と答えている。
(いやいやいやいや!番だろうが相棒だろうが、関わり合いたく無いっつ~の!)
そう心の中で叫び、逃げ出す方法を考えていた。
すると人殺し変態イケメンは、俺の肩を掴み
「俺にはお前が必要なんだ。力を貸して欲しい」
と、真剣な顔で訴えて来た。
一瞬、絆されそうになったけど、今までの経験が俺に警告音を鳴らす。
『どうせまた、裏切られるだけだ』
と。
その時、あの胡散臭い占い師の言葉が脳裏を過ぎった。
『あぁ……。あんた、もうじき運命の出会いってヤツをするね。』
運命の出会い。
ふと見上げたソイツの、漆黒の瞳と目が合う。
揺れる漆黒の瞳が、何処か不安そうに見えた。
するとソイツは右手を差し出し
「俺に力を貸してくれ」
意思の強い漆黒の瞳に、俺は思わず曖昧な笑顔を浮かべて聞き流そうとした。
するとソイツは、片頬だけを上げてシニカルに笑うと
「逃げるの?」
と呟いた。
その態度にカチンと来て
「はぁ?逃げてねぇし!」
と返すと
「いや、逃げようとしていた」
そう返されて、売り言葉に買い言葉。
「逃げてない」
「逃げようとしている」
を繰り返した挙句
「分かったよ!あんたに協力すれば良いんだろう!」
って叫んでいた。
ソイツは『してやったり』と言う顔をして
「じゃあ、決まりだな」
そう言うと、地面に座り込んだままの俺の腕を掴み、ゆっくりと立たせると
「よろしく、相棒」
と、微笑んで手を差し出した。
「お、おう」
俺は短くそう答えると、あいつの右手を払うように叩き、握手はしなかった。
それが俺の出来る、小さな小さな抵抗だった。
ソイツは小さく笑うと、俺のリュックを奪い取り
「住む家も無いんだろう?来いよ」
そう言って歩き出した。
青白い月が夜空を照らす中、俺、小林青夜はソイツの背中を追い掛けるように歩き出した。
心地よい風が俺達の出会いを歓迎するかのように、頬を掠めて行った。
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