出会いは一匹の猫だった。

1/4
60人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ

出会いは一匹の猫だった。

『あなたは……人を幸せにする力を持っています』  それはある日、胡散臭い街角の占い師に呼び止められて言われた言葉。 その後も人生の転換期になると、何故か胡散臭い街角の占い師に呼び止められて、手相を見せる度に言われた。 そして今も、胡散臭い占い師のババアに 「無料でみてやるから」 と言われて、半ば無理矢理占われている真っ最中だ。  この時の俺は、人生最大の不幸の真っ只中に居た。 新卒で入った会社はブラックで、毎日が残業に追われる日々だった。 同期からは『お前の部署に飛ばされたら、俺は絶対に会社辞めるわ!』って言われる程に忙しい部署に配属され、まさに社畜だった。 そんな日々に嫌気がさして、転職する事3回。 毎回、その会社の一番忙しい部署に配属されてしまい、結局、社畜の日々だ。  しかも、不思議と俺が入った会社は急に業績が伸びて会社の景気が良くなり、最後に働いた会社なんて、テレビが取材に来た程だった。 (まぁ、俺はテレビ取材には関係ない部署だったから、一切テレビには映らなかったけど……) だから余計に、俺の負担が不思議と増えてしまう訳なんだけどね……。  そんな中、親友がお店を始める事になって、店が軌道に乗るまで手伝って欲しいと頼まれた。 俺は忙しいながらも、チラシ作成やHP開設等と自分の出来る限りのサポートをした。 開店当初には、仕事帰りに店に顔を出したりもして、大した事は無いけど売上に少しでも貢献しようと俺なりに協力した。 そいつの店は順調な滑り出しで始まり、開店から1ヶ月後にはあちこちのメディアで取り上げられるまでになったのだ。  しかし、店の売上が上がるのと比例して、そいつの俺に対する態度が変わっていった。 そして決定打は、珍しく仕事が早上がり出来たので彼女の家に行くと、二人の情事の最中に出くわしてしまった。  後日、その彼女に 「あんたよりスペックの高い男と付き合いたいの。私、最近モテ期でさぁ~。あんたみたいなうだつの上がらない男と付き合うより、よりハイスペックな男を選んで結婚したいのよ」 そう言われて捨てられた。 同僚だった彼女と顔が合わせ辛くなり、俺は3度目の退職届けを書き、俺は親友と彼女と職を一度に失った。 いつだって、そうだ。 親しくなったヤツ等は、急に運勢が良くなったとかで、俺を裏切り去って行く。 歴代彼女もみんな、自分から寄ってきておいて、最終的には『モテ期が来た』と言っては俺を捨てて違う男を選んで行く。 そう……いつだって、そうだ。  そんな人生最悪の日に、俺は何故か胡散臭い占い師のババアに捕まっていた。 『ほら、この線が俗に言う「アゲマン線」だよ。あぁ、あんたは男だからアゲチンか』 って笑いやがった。 セクハラ発言をスルーしていると 『あんたが入ると、閑古鳥が鳴いていた店に客が押し寄せてくるだろう?』 そう聞かれて、考えてみる。 しかし、不味くて閑古鳥が鳴いているような店に客を呼ぶ事は無い。 美味しくて、普段は混んでいるお店が連休や雨で客足が悪いと嘆いていたりすると、続々と人が入って来ることはある。 それは俺が呼んでいるんじゃなくて、お店の努力の賜物であって、偶然が重なっているだけ。 そう考えていると 『良いかい?あんたには、人を幸せにする能力があるんだよ。だから、旨くもない店に客を呼び込むなんて事はしないよ』 心の中を読まれたようで驚いている俺に、その占い師のババアはこう続けた。 『あんたは人を幸せにする能力を持っては居る。だけど、あんたの力で幸せになったなんて、誰も気付いちゃくれない。そりゃそうさ。みんな自分の力でそうなったと思いたいもんさね。そして、そこでその人の本性が現れるんだよ』 「本性?」 『そうさ。人は幸運の絶頂期に、その人間の本性が分かるもんさ。そこであんたに変わらず接する人は、本当にあんたを大切にしてる人だろうね』 そう言うと、少し俺の顔を見て 『あぁ……。あんた、もうじき運命の出会いってヤツをするね。そうか……、やっぱりあんたのはアゲマン線か……』 そう言って、その胡散臭い占い師は笑っていた。 (こっのくそババア!アゲマンって、俺は男だっつーの!!結局、最後までセクハラ発言だったな!) 胡散臭い占いを終え、俺は街の雑踏に紛れ込んだ。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!