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「あのビル、邪魔っけよね」
麻美は不満そうに鼻を鳴らす。俺はそれを見ていなかった。
「景観を損なうっての。異世界のメルヘンの塔みたいに突っ立ってさ」
真ん前に建築中のひょろ長いシルエットにようやく俺は目を向ける。
「慣れちゃえばどうってことないんじゃない」
「そう?」
麻美は相変わらず憮然としている。もっとも彼女の不機嫌が始まったのはあのビルを見たことに始まったわけではない。今日は会ったときからいらいらしていた。
多分きっかけは、あれだ。
歌舞伎町一番街のアーチが青かったところから、彼女の怒りは湧き上がったに違いない。
俺だって、初めて目にして、パラレルワールドに迷い込んだのかと思ったくらいだから。
それくらい衝撃的だったんだ。
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