青い歌舞伎町

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 俺たちはどうみても補導員の類には見えないからだろう、有希はおとなしくついてきた。大ガードをくぐり、小滝橋通りまで出て、定食屋に入った。有希はハンバーグ定食を、俺たちはアイスコーヒーを注文した。  有希はかなり我慢していたようだが、ハンバーグのいい匂いが漂ってくると唇を噛みしめた。他から見るとふてているように見えたかもしれないが、俺たちはすぐ彼女が飢えていたのだと悟った。実際、かなりがつがつと有希はハンバーグ定食を平らげた。 「家出、してきたのよね」  麻美が言うと、有希はびくっと肩を震わせた。それからこくんと頷く。 「どうして?」  単刀直入な質問も、麻美がすると優しく響く。  有希はしばらくきゅっと口を結んでいたが、やがて思い切ったように言う。 「くそなんだもの。親も、がっこも」  俺はつい微笑しそうになるのを必死で抑える。この年頃は敏感だ。バカにされたと思ったら二度と本音を言わなくなる。でも、彼女の幼い顔と強がったような言葉遣いとがアンバランスで、微笑ましく思ってしまったのは事実なんだ。麻美が続けて尋ねる。 「お父さんもお母さんも嫌いなの」 「そう。お兄ちゃんばっかり大事にして。私、頭悪いから」  よく聞くような言葉だ。この言葉を聞くと俺は無性に腹が立つ。頭悪くて何が悪い。頭いいふりしている奴の方がよっぽど厄介だ。本当に頭がいい奴はそんな素振りも見せねえぞ。俺がこの街で学んだことだ。    
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