青い歌舞伎町

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 俺は三十。自慢じゃないが、埼玉の山奥で生まれ育った。田舎のヤンキーを気取っていた頃、馳星周先生の『不夜城』を何気なく手に取り、ただちに吸い込まれむさぼるように三部作全てを読み切った。何度読んだか知れない。半端な己が恥ずかしくなるようなダークな世界。初めてまともな本を読んだが、俺はすっかりめろめろになった。俺の生きる道はここだ、と腹をくくった。  調べてみると、何のことはない、西武秩父線から西武新宿線に乗り換えて、ただ電車に揺られていればすぐにたどり着けるじゃないか。  ポンコツ高校を中退し、親には黙って荷物をまとめ、身一つで家を出た。  西武秩父線の駅の始発に乗って行ったが、憧れの歌舞伎町にたどり着いたときはまだ八時過ぎだった。  西武新宿駅前に喫煙所があったが、そんなところで大人しく吸う俺じゃない。  歌舞伎町の裏街道で中国系やくざの前ですっと投げ捨ててやる。  俺は自分がただの日本人でバンバンでさえないことが口惜しかった。 ※『不夜城』をお読みでないと分からないところもあるかと思いますが、コメディなのでそのままで。『不夜城』は私の愛読書の一つです。  
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