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601号室、その目の前に立ち私は深呼吸をする。 お盆休み明けの初めての出勤日だった。 今日は1人で新規顧問先のお客様の家にヒヤリングに来ていた。 深く深く深呼吸をした後、インターフォンを鳴らす。 エントランスで鳴らしたインターフォンでは少し時間が掛かっていたけれど、部屋のインターフォンではすぐに反応があった。 鍵が開く音が聞こえ、出て来た。 扉が普通に開き、出て来た。 ニャンが出て来た。 昨日久しぶりに会ったばかりのニャンが出て来た。 半袖とスウェットのズボン姿で少し眠そうな顔をしていたかと思ったら、私を見るなり凄く驚いた顔になって・・・ 「あれ・・・何で会長が?」 「さっきもエントランスのインターフォンで言ったけど、ニャンの担当は私になってるから。 松戸会計事務所の国光です。」 「・・・寝惚けててよく見てなかったし聞いてなかった。」 ニャンが苦笑いをしながらそう言って、何かを思い出したかのように勢い良く扉から体を出し、それからバタンッと大きく扉を閉めた。 背中でしっかりと扉を押さえていて、少し焦った様子で私のことを見下ろしている。 「こんなことなら会長が今何をしてるのか昨日聞けばよかった。 俺には関係ないと思って聞くのをやめたんだよ。」 少し焦りながらそう言ってきて・・・ 「親から紹介されたから松戸さんに連絡したけど、松戸さんは?」 「前のアポが押しているらしくて、先に私が来て間を持たせるように言われたの。」 「そうなんだ・・・。」 ニャンが悩んだ様子で呟き、それから気まずそうに口を開いた。 「家を指定してたけどすぐ近くのファミレスに変更でもいい?」 「うん、いいけど・・・」 背中をピッタリと扉につけているニャンに言った。 「家の中が散らかってても大丈夫なのに。」 「そういうんじゃなくて・・・」 ニャンが私から視線を逸らして小さく笑った。 「好きな女の子がいるから、会長には入って欲しくない。」 .
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