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唯斗がキラッキラな顔でニャンが描いた写真を1枚ずつ見ていく。 そして1枚の絵の前で止まった。 「これ!これがいい!!」 それには少しだけ驚いた。 ニャンの新作の絵だったから。 「お前見る目あるな、増田財閥の分家の人間だしな。」 ニャンがそう言った後にゆっくりとその絵の前に立った。 私と再会し初めてエッチをした日から描いていた絵の前に。 私が初めて見た時はお化粧をした私の姿だけが描かれていたけれど、今ではその“私”の後ろにもステンドグラスが広がっている。 そして、私の顔にも光り輝くような色が塗られている。 それなのに・・・ 「不思議とこの女の子だけは大人に見えたから!! 他の絵の女の子も綺麗な女の子だけど、この絵の女の子はめちゃくちゃ綺麗な女の人に見える!!」 唯斗がそう言ってキラッキラな顔でその絵のタイトルを指差した。 「これだけタイトル違うね!! 他の絵は全部“夏の夜の、天使”なのに。」 そう言われ、私もニャンの隣に立ちその絵を見詰めた。 そして、そのタイトルを読み上げた。 「「“夏の夜に、またね。”」」 ニャンと言葉が重なり2人で笑い合った。 「カヤちゃんもよく許せるよな~。 彼氏が自分じゃない女の子の絵ばっかり描いてたら嫉妬しない?」 「嫉妬なんてしないよ。」 アイテープをしている私が笑いながらニャンを見上げると、ニャンも笑いながら私のことを見下ろしてきた。 そして・・・ 「嫉妬してたら可哀想だから。」 そんなことを言って私の顔にゆっくりと顔を下ろしてきて・・・。 唇と唇が触れ合いそうになった瞬間・・・ 鋭い視線を感じた。 その視線の主を見てみると、いた。 壁に“私”がいた。 去年の夏の夜の“私”がいた。 その“私”が物凄く冷たい目で私のことを見ている。 それを見て・・・ それを感じて・・・ 私は慌ててニャンの胸を両手で押した。 「“あの子”が凄い嫉妬してるからここではやめよう・・・!!」 去年の夏の夜の“私”を見ながらニャンに言うと、ニャンは面白そうに吹き出した。 「嫉妬深いタイプだったんだ?」 「そんなはずはないんだけど、そうみたい。」 「毎日こっちにも顔を出すよ、ちゃんと。」 「うん、そうしてあげて?」 「でも、朝を迎えるのは隣の部屋で、今のカヤと。」 「うん。」 そう答えてから、ニャンと2人でリビングの扉へと歩いていく。 「実家に行く前に“ニャン”に手を合わせに行ってもいい?」 「いいけど・・・。 俺、いつまで“ニャン”って呼ばれる感じ?」 「“ニャン”って私の1番特別な存在なんだよね。 結婚したら2人とも“すざきかや”になっちゃうし、ニャンのことはニャンって呼びたいなと思っちゃう。」 「・・・何でもいいよ、もう何でもいい。 明日もカヤに会えるなら何でもいい。」 ニャンが最後は笑いながらそう言って、扉を出る瞬間に壁にいる“私”の方を見た。 そして・・・ 「行ってきます。」 壁にいる“私”にニャンが言った瞬間・・・ 「行ってらっしゃい!!」 唯斗が元気よく言ってくれ私は大笑いしてしまった。 「お前じゃねーよ!!」 ニャンが笑いながら唯斗に突っ込んだのにまた笑いながら、私は唯斗に言った。 「唯斗、バスケ部のコーチもやってみない? バスケ部のキャプテンだったでしょ、強豪校の。」 「そうだったけど、バスケか~・・・。 何で?」 「ニャンと私の出身高校、そこの男バスの副顧問の先生の奥さんが妊娠したんだよね。 奥さんの妊娠中は結構大変になってその人が部活に出る時間がなさそうだから。 あの先生が副顧問になってからウィンターカップに出場出来るくらいになったらしいんだよね。」 「ウィンターカップ!? めっちゃお洒落じゃん!やるやる!!」 「お前のお洒落の基準どんなだよ!?」 ニャンと大笑いをしながら601号室の部屋を出た。 その瞬間・・・ “行ってらっしゃい。” そんな声が聞こえたような気がした。 でも、ニャンは何事もなく歩き出したので私も気付かないフリをした。 ニャンから“普通”じゃないと思われるのが嫌なわけではなく、今の声が過去の“私”の声なのだとしたらニャンに知られたくないと思ってしまった。 「今の私も結構嫉妬深いのかも。」 「どんなカヤでも俺のタイプど真ん中だから大丈夫。」 今年の夏は終わりこれから秋の季節がやってくる。 随分と軽くなった空気を吸いながら、私の隣に歩くニャンの温かい手を握った。 そして呟いた。 「夏の夜に、またね。」 「え、次は何があるんだよ!?」 「さあ~・・・?」 「こっわ!!!怖いって!!!」 end.........
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