とある兄弟の話

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とある兄弟の話

(SIDE:???) 俺の弟は不思議なやつだった。 警戒心が強くて他人になかなか心を開かないくせに、誰かが困っていれば当たり前のように助けようとする。 そんな弟のことが俺は大好きで、大事で、どんな時もどこへ行くのも一緒。俺とあいつはいつも手を繋いでいた。 その日、いつものように2人でよく遊んでいる公園へ行くと、一匹の猫がぐったりと横たわっていた。一瞬死んでしまっているのかとびっくりしたけど、すぐにそうではないと気付く。 猫の目は開いていて意識もあるようだったが、身動きがとれないらしい。よく見てみると、右後ろ足から血が出ていた。 怪我をしているのだと分かってどうしようかと考え込んでいると、隣でジッと見ていた弟が不意に猫に近付いた。そして屈み込んで、猫の足にそっと手を添える。 いったい何をしているのかと思ったその瞬間、ぐったりしていたはずの猫が嘘のようにすっくと起き上がった。 そのまま何事もなかったように歩いて行ってしまう猫の後ろ姿を、呆然と見つめる。 いったい何が起きたのか、わけも分からないまま弟に視線を戻すと、今度はそっちが地面に倒れていた。 右足を押さえているその様子に、まさか…と信じられない気持ちになりながら手をどかしてみると、まるでさっきの猫の足のように皮膚が裂けていた。 そんな馬鹿な…と否定したくなったけれど、目の前で起きている現実がそれを許してくれない。 こいつは今…猫の怪我を自分に移したんだ。 人智を超えた力を目の当たりにしたその時、なぜだかとても恐ろしくなって大きな胸騒ぎがしたのを覚えている。 そして、もう絶対同じことをさせてはいけないと思ったんだ。
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