家に上がり込むデカイ猫

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家に上がり込むデカイ猫

 その日は、朝から梅雨特有の空模様で夕方になる頃には、小雨で肌寒く比較的に過ごしやすくて、寝やすかった。    だけで終わらないのが、今現在の日常 ( 俺の )  時刻は、朝。9時頃。  一階からの賑やかな話し声で目が覚めた。  今日は、土曜日。  スマホで、日にちと時間を確認する。  それにしても、賑やかな声だ。  渋りながら身体を起こし部屋のドアを開ける。  階段を、降りてリビングの戸を開けると……  同時に俺は、戸を閉めた。  夢か?  幻か?  このドキドキは、動悸だ…  「セ・ン・パイ !!」  そして、現実だ。  はねっ毛な茶色の髪に大きな目をした後輩小埼が、俺の腕に抱き付き擦り寄ってくる。  その片方の腕には、ゴロゴロ喉を鳴らす愛猫、チャパ。  この猫め…  飼い主、間違えてる…  なんで見も知らんヤツに懐いているんだ?  チャパの人見知りは酷いはず…  なのに床に、寝そべり腹を出し。  撫でろのポーズ。  「慣れると人懐っこい可愛い子だよね」  ワシャ、ワシャ、と腹を撫でられご機嫌なチャパは、膝を付く小埼にスリスリと擦り寄る。  「抱っこして欲しいの?」  おかしい。  気難しいで有名なうちの飼い猫が、こんな小埼ごときに懐くなって…  「センパイ! 今日は、暇なんでしょ? 前に言ってたデートしよ!」   悪意ない微笑み程、怖いものはない。  「ってか、声がデカイ !!」  「デカくないし。それにセンパイのお母さんには、断わって家に上げてもらったし」  …コイツ。  母親に何を、言いやがった?  「えぇ~っ、何も言ってないよ。ただ。センパイとデートしたくて来ましたって、言っただけだよ」  十分すぎる程、言ってる…  で、招き入れた母親は、何考えていやがる ?!  「ねぇ~っ、センパイ。紫陽花みに行こう」  「お前…懲りてねぇーの? 俺、行かねぇーったよな?」  小埼は、プクッと膨れた。  「だって…センパイと、紫陽花見に行きたかったんだもん…」  だもんって…  溜め息しか、出てこねぇ~っ…  何で俺、自宅の廊下で座り込んでんの?  押し掛けてきた後輩小埼が、悪いわけで俺が、項垂れてどうする?  って、  後輩の頭に、この間から見え始めた?  幻影に近い猫耳が、元気なくペタンとなっているようにも、見え始める。  俺の目が、とうとうイカれ始めたか?  なんか…  「……………」 イラッ。  ったく…  「ガキみてぇーに、シンボリすんよ」  楽しみにしてた約束が、破られたみたいに落ち込むな…  無性に、イラつく。  「そもそも、約束してねぇーよな俺ら?」  「それは…」  言葉が出ないのか、濁らせたのか押し黙る小埼が、小さく見えた。  「小埼 ?」  「…………」  そこへ、 のそっりと、俺と小埼の影に影が被さる。  「今から着替えして、紫陽花公園に行ったら丁度、お昼だし。その公園で、毎週見掛けるキッチンカーで、二人して何か食べて来たら? 私は、午後から仕事が入って居るし。断るのは自由だけど…そうなったら暇なんだろうし。店を手伝いなさいね」  「え゛ぇぇぇ…」  「じゃねぇーわ。店の手伝いか、キッチンカーか選べ」  そう言い放ったのは、母親だった。  「キッチンカー?」  「そう。クレープのね。甘いモノだけじゃなくて、惣菜系クレープもあるから」  「うわぁ~っ、聞いてるだけでも、美味しそう! 楽しみ」  あっ…  もう行く前提に、話しを進めるな !!  ホント。  心底思う。  何、余計なこと言っちゃってくれてるのかなぁ?  「ブツクサ言ってんじゃないの。後輩くんが来て出掛けようって、言ってるんだから。行ってきなさいって」  「やった!」  お前が、言うな !!  「どうせ。アナタは、誰かが連れ出さないと、絶対に外には出ないし。本ばっか読んでるし…外は、健康に良いわよ」  日頃から徒歩圏内の高校に歩きで行ってるヤツを、ナメんな。  「あら紫陽花公園は、その途中じゃない。小さい頃は、よくお父さんとキャッチボールしたり。友達と遊んでたじゃない」  何の暴露だ?  「後輩くんに、迷惑掛けない」  寧ろ。その後輩に迷惑掛けられてるの俺なんだけど…  「早よ。行けや…」  母親の整った眉尻が、上がるときは、冗談などの話しは通じない。  奮い立たされるみたいな言い方は、アレだが…  俺が、ビックとなったものだから小埼も、つられて立ち上がると俺の後を追うように二階の自室に入り込んできた。  いや…  「何どさくさに紛れて、入り込んでんだ!」  「へぇ……あっ…えっと…」  うん。  見事に顔色が、変っていった。  紫陽花じゃねぇーけど。  青から赤へと見事な移り変わりを、見せてくれた。  「わぁ~っ、センパイの部屋だ! 夢みたい。どうせなら写真を…」  「勝手に、撮るな !!」  ってか、夢みたいってなんだ?  「じゃ…センパイ。一緒に写真撮ろう!」  いや。いや。  何の写真だ?  「記念?」  「侵入されたよ。記念か?」  「センパイ。ヒド !? オレは、本当にセンパイが、好きで嬉しいだけなのになぁ…」  だからって、何で落ち込む?  「好きだからに、決まってるし」  ホント。  この話題に関しては、堂々巡りだ。  小埼は、こう言う人懐っこい性格だから先輩後輩共にも人気あるし先生方の受けも良い。  「お前さぁ…人気者なんだから。俺じゃなくて、先輩後輩女子に告った方が、良くないか?」  はっきりと言えば、そうなるって分かってるはずだろ?  「何で…そう言うこと言うの?」  口には出さないが、常識から考えれば、そう言う結論になるだろ?  「それでも、オレ…センパイが、好きなんだもん」  小埼の大きな目で、ジッと見られると、  一瞬…  申し訳なくなってしまい思わず視線を、反らした。  いや…  付き合えないことについては、極論でなく。  正論だと、思う。  カタッと音がした。  顔を挙げると…  「小埼…何してる?」  「えっ…と…初めてのデートに、センパイ。何着てくれるのかなぁ…って…」  「人のクローゼット。堂々と覗いてんじゃねぇーよ !!」  「えっ !! だって、初デートの洋服。オレが、選びたい!」  選びたいじゃねぇから!  「センパイの普段着って、いつもおしゃれだし。カッコいいし」  今、はっきりと普段着って言ったな?  「…………」  「センパイ?」  不思議そうに見上げてくる後輩小埼。  家の場所、知ってるっう事は、俺の普段を知ってるっていても、おかしくねぇーのか…  俺が、行かねぇーって、言っても母親から強制的に行かされそうだし。  仮に小埼も、行かなくても良いです。  って、言おうものなら…  夕方、夕飯まで居すわるつもりかも知れない。  折角の土曜日俺が、休まんねえーよ。  「センパイ。どれ着る?」  だから…  なんなんだ?  コイツは ?!  何で、俺…  休みの日にイライラしてんだ?  あぁ~っ、もうぉ~っ。  何かが、プツンと切れた。  よく理性が、とか。  本能? 感性? って言う諸々の糸が、切れる何って言うけど、この場合。  我慢? 呆れ?  「センパイ?」  「分かったよ。紫陽花見るのだけは、一緒に行ってやるよ。但し今回だけな !!」  その言葉に喜び抱き付こうとしてくる小埼の襟首を、掴み部屋追い出す。  「えっ !! 何で?」  「着替えるからだろ?」  「手伝うのにぃ~っ…」  「…………」  コイツ何か、企んでる?  えっと…  それだけは、深く考えないようにしよう……  「ニャーー~ン」  チャパ?  お前、いつの間に入って来たのんだ?  今か?  足に擦り寄る愛猫のチャパ。  この裏切り者め…              続く
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